只今俺の妻は死んだふりをして出迎えてくれています。【赤葦京治】 (ページ2)

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包丁で背中を刺され、血まみれになって横たわる俺の妻。

全国の夫なら、この状況に遭遇するとどうなるのだろうか。

そんな呑気な事を考える俺。

…………………そろそろ、反応しよう。

「………A、どうしたの。」

「………………」

そう言いながら控えめに背中を揺すっても、起きない妻を見つめる。

「………………ただいまー」

「おかえりっ！京治！！」

ガバッと起き上がる目の前の妻。

彼女は、いつも「ただいま」にしか反応しない。

笑顔で、周りには何やら花が見える。

「ご飯にするー？お風呂にするー？それとも……「血のり掃除ね」えー、ちょっとはのってよ京治ー」

「その冗談、一昨日にも聞いたから。」

「冷たいなー」

と言いつつ、渋々雑巾を２枚持ってくるのが素直で可愛い、と思ってしまうのが情けない。

俺はその雑巾を受け取り、２人で血まみれの玄関を拭く。

スーツ姿の俺と、エプロン姿で血まみれの妻が雑巾で血のりを拭いている様子は、何ともシュールな光景だろう。

「今日は無難に包丁にしたんだよ。その分血のりが多いけどねー」

「ちょっと多過ぎたかなー」なんて呟いてるのは、もう分かるだろうけど俺の妻の赤葦A。

基本ふわふわしていて、何をしでかすか分からない、世に言う不思議ちゃんである。

この不思議ちゃんが、家に帰るといつも死んだふりをしている“変な妻”に見事昇格してしまったのである。

確か、死んだふりを始めたのは結婚して１ヶ月後ぐらいかな…………

今思えば、あの時の俺はとても冷静だったと思う。

まあ、その話は置いといて………………

「よしっ！拭き終わった！晩ご飯出来てるから食べよー！」

「そうだね。」

でも、死んだふりを始めて半年以上が経ったが、今でも死んだふりをしている理由が分からないのは何故だろう。

まあ、今のままでも楽しいし、いっか。