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第五話 怪盗の言葉 ページ14

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「使用人は皆四階の部屋で、私の部屋の窓は寝る前に月が綺麗に見えるの。それで…」

 店を出ても、話は尽きなかった。無言の間が生まれるよりも先に、必ず示し合わせたようにどちらかが話をした。

 キッドにとっても、Aにとっても、これは意外な事だった。まるでハンバーガーショップの中で魔法にでもかけられたような変化だった。


 市庁舎の前を歩いた時、時計台がAの目に入ってきた。
 時刻は午後十時過ぎを指している。約束の午前零時まであと二時間もなかった。

 Aはそのまま隣で話をしているキッドの横顔を盗み見た。

 あと二時間でこの空間とも彼とも別れるのだと思うと、無性に、心に風が吹き込むような感じがした。刻々と時を刻む時計が恨めしいような気もした。

 当然それはキッドの方も同じだった。
 今宵といったのだから、午前零時までではなく夜明け前の午前五時までにすればよかったなど、先程から頭の中で後悔が絶えなかった。

 キッドは話途中にAを見たとき、彼女の視線が時計台に注がれているのを偶然見た。

 最初は午前零時を待っているのだと思った。が、一瞬間、Aの瞳が曇ったのが見えて、キッドは胸がどくりと波打つのを感じた。

 もしや、Aも同じ気持ちなんだろうか。
 そう思うと、胸に言い知れぬ興奮が沸き起こった。

「……そんなに時計が気になりますか?」

「え? えぇ、まあ…だって…」

 Aはキッドの問いにあからさまに言葉を濁らせた。俯く彼女を見て、キッドは彼女の心中が自分の予想通りであることを確信した。

「……A、どうしても一つ、貴方と行きたい店があります。いいですか」

 可能ならば、このひと時を彼女に忘れないでいてほしい。

 そう思ったキッドは、ある場所にAを連れて行こうと思いついた。
 彼の提案に、Aは怪訝な顔をしたあと頷いた。

 

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- 一気読みしました!めちゃくちゃ続きが読みたいです!待ってます! (2022年9月13日 8時) (レス) @page48 id: 08a0986ba6 (このIDを非表示/違反報告)
橋本アリィちゃん(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!もし続編があるのなら、続きを楽しみに待っています!(*´ω`*) (2022年2月10日 14時) (レス) @page48 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - shibuyuさん» ありがとうございます!続き早くお見せできるように更新頑張りますね(´˘`*)! (2019年7月11日 0時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)
shibuyu(プロフ) - 怪盗キッド!私も大好きなので萌えます!早く続きが見たいなー!なんてっ♪ (2019年7月8日 17時) (レス) id: 8ac4695b82 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫@さかなねこ(プロフ) - くろばさん» ひゃ〜〜めちゃくちゃ嬉しいお言葉ですありがとうございますー!これからもドキドキキュンキュンしていただけるように頑張りますので楽しみにしていただければ幸いです〜! (2019年7月4日 22時) (レス) id: e45d5a1191 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒猫@さかなねこ | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2019年5月22日 2時

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