白銀の狼【トラファルガー・ロー】Ⅰ (ページ34)

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ローside

不意にAが悲しそうな、寂しそうな表情を浮かべ、俯いた。

ロー「…どうした？」

俺は心配になり、Aの顔を覗き込んだ。

『…なんでもない』

ロー「…そうか」

絶対、なんでもなくないだろ。

問い詰める事だってできたが、何となくこれ以上聞くのはやめた方がいいと直感で思い、やめた。

『………』

ロー「…その、Aはどうして精神科医になりたいと思ったんだ？Aの父様や母様みたいになりたかったからか？」

俺はどんよりと重くなった空気を変えたくてAに話題を振った。

『ううん。お父様もお母様もお医者さんじゃなかったよ』

ロー「じゃあ、なんで…」

『……前に私が化け物扱いされてたの話したよね』

ロー「…あぁ」

他の人とは容姿が違うからって理由で化け物扱いされてたんだよな…。

酷い話だ。

聞くと、Aは母様からも化け物扱いをされていたらしい。

そして、生まれてから一度も母様や他の人に愛されなかった。

なんだよそれ…。

我が子を化け物扱いできるAの母様の気持ちが俺には理解できなかった。

父様の話が一切出てこないな…。

……まぁ、何となくは察するが。

誰からも愛されなかったのに、どうしてAは優しい人に育ったんだ…？

俺はそこを疑問に思ったが、すぐにその理由がわかった。

『それでもう心身共に限界だった時にある人に助けられたんだ』

ロー「…ある人？」

"ある人"というのはAの命の恩人らしい。

『その人は私を助けてくれただけでなく、色々な物を私に与えてくれた。医療の知識、体術、剣術、銃術、優しさ、温かさ、そして愛情。あの人が私を助けてくれたように私も誰かを助けたいから精神科医になろうって思ったの』

だから体術、剣術、銃術の扱いが上手いのか。

『今の私があるのはその人のおかげなんだ』

Aは誇らしげにそう言った。

Aが優しく正義感が強く真っ直ぐに育ったのはその人の影響なんだろうな。

ロー「その人の事、尊敬してるんだな」

『うん！私の命の恩人で大切な人なんだ！」

Aは笑顔でそう言った。

その笑顔を見て何故か胸がギュッと締め付けられる。

苦しいけど、嫌な苦しさじゃない。

…なんだよ、これ。

『私、立派な精神科医になれるかな』

ロー「なれるだろ」

『なんで断言できるの？」

ロー「…なんとなくそう思ったんだ」

あの時、前に出て俺を庇ってくれたんだ。

そんな優しくて強い奴が立派な精神科医になれないはずない。