オロチ受け小説短編集其の五 (ページ6)

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お茶会は縁の切れ目に《邪竜神》(オリキャラ）(上) ページ6

「その時、オロチがな………」
手に取っていたカップに口を付けて、楽しそうに喋る向かいの男をカップ越しに見る。
幼さの残る顔立ちと、それによく似合う、眩しいくらいの笑顔。陽の光に照り返るブロンドの髪。
その姿がなんとも憎らしくて、私はカップに揺れる茶色い液体に視線を落とした。
口に含んで飲み込むと、紅茶の芳しい香りが鼻腔を擽る。気に入ったから、明日同じ物を仕入れよう。
カップをソーサーに置いて向き直せば、カチャリという無機質な音を合図に、彼が私に目配せした。まるで反応を乞うように。
「へぇ、そうなんだ。」
張り付いた愛想笑いを向けると、彼もまた同じように笑い、嬉しそうにまた、長話を始めるのだった。

赤いヒヤシンスが、彼と私を隔てたテーブルの卓上で、午後の風に揺れた。
陽だまりの中、優雅なお茶会。
「君達は上手くいってるんだね。」
惚気話も耳に胼胝ができる程聞いた。そろそろお開きにしようか。
「ん、まあ、な……」
「それじゃあ、君達の良縁を願っているよ。そういえば………私はこれから用があるから、お暇するね。」
「ああ。じゃあ俺は帰った方がいいな。ありがとう、次は此方が招待しよう。」
本当は、用事なんてなかった。
彼、エンマ君のことは、別に嫌いという訳でもなく、時折こうしてお茶会を催すくらいの仲だ。
でも、あの子を取られるのはどうにも勘弁ならなかった。
初恋だった。あの子のお陰で、廃れた私の心は救われたんだ。一方的な運命で終わらせたくない。
「うん。じゃあね。」
望むらくは、どうかオロチの元からも去って。
「またな。」
手を振られたから振り返した。靴底が床に打ち付けられる度に鳴る足音と共に、次第に小さくなっていく彼の背。それがやがて扉の向こうに消えていくと、口から大きな溜息が零れた。
虚しさが込み上げてきて、もうどうしようもない。徐に残りの紅茶を飲み干して、それから私は、行儀が悪いと知りながら手悪戯を始めた。
ふわふわ漂う妖気を固めて、それから直方体のそれを小さく分裂させる。臙脂の直方体達は等間隔に宙で浮かんでいた。
「………………」
末端を押した。
指で突いた所から、他を巻き込みカタカタ倒れていく。終着点を目指して。
対人関係も、このくらい脆弱なら良いのにね。