オロチ受け小説短編集其の五 (ページ3)

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葉の紅に色付く頃《茨木童子》(オリキャラ)(参) ページ3

「わぁ………」
吊り目でやや気の強そうな顔に似合わない、爛々と輝いた目が水槽を捉える。そんな彼の無邪気さを、隣の茨木は、子の健やかな成長を喜ぶ親のように見守っていた。
「凄いな。見たこともない魚が沢山いる……」
「本当は動物園にしようとしていたのですが、時期が時期ですから、暖かい館内の方が良いかと思いましてね。喜んで頂けたようで、私も嬉しいです。」
「ああ、ありがとう。お前に連れて来て貰ってよかったよ。」
二人は率直に思った事を言っただけなのに、少し経ってから恥ずかしくなったのか、照れ臭そうに目を逸らした。
「行きましょうか。」
気分は上々。温かく締め付けられる胸をそのままに、オロチは、差し出された茨木の紳士的な手を再び握った。大の男も、暫しこの空気に酔い痴れたかったようだ。
館内には、テンポの良いBGMが流れていた。オルゴールの音色。元の曲は悲愴感漂うエレジーだが、どこかゆったりとしていて明るい音は、この幻想的で且つ楽しげな館内にぴったりだった。
一つ一つ、水槽を覗き込んで、オロチは足取りを弾ませる。
茨木はもう少しじっくり、魚の種類や説明の書かれたグラフィックを読みたかったが、オロチの好奇心に押され、そうも言ってられないので、ふらふら手を引かれるままに着いて行った。
側から見れば、従兄弟の遊びに付き合わされるお兄さん、と言ったところか。周りの人たちは、その行動の滑稽さをくすくす笑い、微笑ましそうに眺めた。
楽しい時間が過ぎるのはあっという間。イルカショーの開演時間が迫る中、時計は既に正午を回っていた。
「お昼餉の時間にしましょうか。」
「むぅ……もう少しだけ！もう少しだけ見るのは駄目か？」
瞳を潤ませるオロチを甘やかしてしまいそうで、茨木は目を逸らしながら
「駄目です。あそこのカフェにしましょうか。さあ、行きますよ。」
と言った。オロチを連れ歩く時は、これくらい強引でないと駄目だった。オロチは抗うのも諦め、渋々茨木の後に続いた。
カフェテリアはこれまた小洒落ていて、並んでいる料理も海や魚を材料やモチーフにしていて、見ているだけで楽しい。
茨木はパスタとパイのセットを、オロチは鮭のムニエルとケーキを頼んだ。
先程見ていた魚の中で、どれが一番気に入ったか、などを話しながら、料理を口にした。
入り口で吹いていた、潮の香り混じる強風が思い出される海鮮が鼻腔を擽り、その美味な料理を、二人は暫しの間嗜んでいた。