葉の紅に色付く頃《茨木童子》(オリキャラ)(弐) ページ2
打ち返る漣の潮騒を掻き乱そうとでもしているのか、カモメが喉をミャアミャアと鳴らした。
風が潮の香りを運び、その風もまた、木の葉を揺らす。
それら自然の音を背に、茨木とオロチはとある列に並んでいた。
「茨木、此処は何処だ?」
そう問うたオロチは、新調した服を着て、ご機嫌なような、落ち着きが無いような、そんな様子だった。足踏みしたり服の表面をさらさら撫でたりしている。
そんなオロチを見て、微笑ましく目を細めた茨木は、顎に手を添え考える仕草をして、それからゆったりと答えた。
「貴方がきっと気に入る所ですよ。」
「………そうか。」
含みのある答えの時は、しつこく訊こうと答えてくれない。それを知ってか、オロチはこれ以上何も言わず、ポケットに手を突っ込んで、一つ息を吸って吐いた。
柔らかい白が、軈て大気に溶ける。列は少し進んだ。
今日のこの時間、日曜と云うこともあって、この列はなかなか長く、暫く二人は退屈そうに雑談を交えていた。その際、さりげなくオロチが何の列かを訊いたが、茨木は言葉を濁し、話を逸らすばかり。列の上の方から大きく広い施設が見えるが、それ以上の情報はない。オロチは不服そうに眉を下げる。
そうこうしている内に前列の人が行った。茨木は手早く二人分の入館料を払い、これからこの施設の正体が分かるのだ、とわくわくと目を輝かせているオロチの手を引いた。
そしてオロチの目に最初に飛び込んだもの。それがオロチの目を一層爛々と輝かせた。
『春夏秋冬水族館(ひととせすいぞくかん)へようこそ!』
海豚やクマノミの描かれたポップな看板の下に、施設……水族館への入り口があった。
手が解けると、オロチは一足先に駆け出した。
「イルカもいるか?」
振り返ったオロチが悪戯っぽく笑う。
「ほう、洒落ですか。」
「駄洒落だな。」
和んだ空気を愛おしげに吸い込み、茨木はふふっと端麗な顔を綻ばせた。
辺りは彩りが増し、白昼夢にも似た、温かさと儚さを含んだ雰囲気に恍惚とする。夢ならどうか覚めないで。そんな臭い台詞さえ似合ってしまうような。
潮の香り混じる強風が、二人の背中を押した。冷たい大気と裏腹に仄々とした二人の茶番を茶化すかのような風だ。
その風に煽られ、二人は少し早く、館内へと足を踏み入れた。
仄暗いながらも、奥に見える水槽と、その上に差す日光の乱反射は、建物一帯を明るく見せる。
急いで先へと進みたいオロチを軽く窘め、手に持っていたチケットを二人、受付に差し出した。
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作者名:咲羅 | 作成日時:2018年11月14日 17時