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特に何も言葉を発することなく寮へ戻ると、買ったばかりの扇風機のスイッチを押して涼を取るのんちゃん。

そこにいたら私まで風が来ないんですけど。

怠そうな背中に心の中で文句を言って冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。

扉が開く音に反応したのんちゃんは、俺にもと言ってこちらを見ている。

仕方なくコップを二つ用意して同じくらいまで水を入れ、その場で腕を伸ばしてここまで来るように促す。

風を遮断している罰としてそうやったつもりだったが、そんなこと知るわけもない彼は年寄りのような掛け声を出してゆらりと立ち上がる。

そうしてコップを受け取ると喉仏を上下させて一気に飲み干してしまう。

もちろんそのコップはすぐに私の手元に戻ってきて洗ってくださいと言わんばかりに口角を上げる。

早く神ちゃん帰ってこないかな、素直に顔を見ることができるか不安だけど。

そう思いながら自分も渇いた体内に水分を吸収させた。



それから数時間後、年上組三名がそれぞれ暑いを連呼しながらリビングへ入ってきた。

蒸し蒸しした空間に高気圧の塊のような彼らが入ってくることでリビングは外と同じような温度になり扇風機が稼働する意味はほとんど無くなっていた。



神ちゃんがいつものように私を見てただいまと声をかける。

どうしても暗闇の中でのんちゃんとキスをしたことが脳裏に浮かんで自然と口元に目がいってしまう。

そんな様子を見た神ちゃんは片手で私の両頬を挟み何かあったのか問うてきた。

さすがだな、と思う。

まだ何も話していないのにほんの一瞬で全てを知られてしまった気がした。





「 暑すぎてボーッとしてんの? 」


「 そうかもしれない 」


「 熱は無いんやろ? 」





言いながら自分のおでこを私のおでこにくっつける。

突然近くなった神ちゃんとの距離に驚いて思わず私の方から顔を離してしまった。





「 …そうだ、エアコン付けよう!扇風機だけじゃ全然涼しくないし! 」





あからさまに明るく発言した私にどこか不信感を抱いているのは表情で分かった。

私の意見に賛同したしげと流星さんは喜びながらエアコンのリモコンを探し始める。

ずっと私達の様子を見ていたらしいのんちゃんは何も言うことなくただただ無表情で立ち尽くす。

神ちゃんがそんなのんちゃんに気付いて声をかけようとしていた。

そこで突然目の前が真っ暗になって記憶がストップしてしまった。

私を呼ぶ声だけが脳内に響いた。







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作者名:ひよこ | 作成日時:2019年5月17日 18時

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