夏 ページ33
.
そっと唇を離すとのんちゃんはすぐにごめんと謝った。
頬に伝う涙がそう言わせたんだと思う。
「 …どうするの 」
「 どうするって… 」
「 私達一年後も同じ空間で過ごすんだよ、学校だけじゃなくて私生活も同じなんだよ。こうなってしまった以上さっきまでの気持ちには戻れないって 」
「 戻らなくていい 」
「 えっ？ 」
はっきりと見えないこの暗闇でのんちゃんは意味の分からないことを言った。
戻らなくていい、それには何が含まれているのか。
「 神ちゃんのことやろ 」
「 …そうだけど 」
「 つまり俺とキスした以上、神ちゃんだけを好きでいることできひんってことやんな 」
「 そんな軽い気持ちで神ちゃんと付き合ってるわけじゃない！ 」
「 だったら何なん？さっきまでの気持ちって神ちゃんを一途に想い続けることじゃないん？ 」
「 …神ちゃんを…神ちゃんだけを好きでいることはできる。でも素直に好きって言えなくなったってことだよ 」
もう片方の目からも涙が溢れてくるのが分かる。
その涙を見たのんちゃんは手を伸ばして優しく拭き取ってくれる。
そんな風に優しくしないでよ。
なぜか言葉は出てこなかった。
「 俺分かるで、ほんまに拒否する時お前やったら手で口ガードすること 」
「 だから何？ 」
「 嫌ではないんやろ 」
「 そうやって人の心にズケズケ踏み込んでくるのやめたほうがいいよ 」
「 最近神ちゃんと一緒に過ごせてへんから寂しかった、違う？ 」
どうして私の心を読み取れるのだろう。
そんなに私は分かりやすい女なのだろうか。
「 寂しいんやったら寂しいってちゃんと神ちゃんに言った方がええよ 」
「 言っても神ちゃんは勉強のことで精一杯だから 」
「 残るは俺だけやな 」
そう言って頭を何度か撫でて静かに笑うと、残りの牛乳を私に何も聞かずに全て飲み干してゴミをまとめる。
その様子を何も言わずに見つめていた。
手元にあった食べかけのクロワッサンは食べる気がしなかったのでのんちゃんにあげることにした。
間接的なことは今更な感じがしたので気にも留めなかった。
彼も何も気にしていなかった。
重い足取りで暗い階段をゆっくり降りて久々に太陽の光を感じる。
それと同時に暑さが再び私達を異常な脳内に変えていく。
そうだ、のんちゃんをおかしくさせたのはこの暑さのせいだ。
全部悪いのは夏のせいだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 76人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひよこ | 作成日時：2019年5月17日 18時
