音 ページ18
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神社に近付くにつれ喧嘩する声が聞こえていた。
それが誰と誰なのか、何となく予想はしていた。
「 A、行くで 」
望は手を伸ばして私を捕まえようとする。
唇の左端は切れて赤くなっていた。
「 A 」
動こうとしない私の手を掴んで
そのまま今来たばかりの階段を降りようとする。
神山くんは何も言わず眉を下げて私を見ていた。
その表情は出会ってから一度も見たことがない
本当に寂しくて哀しくて辛い残酷なものだった。
手を繋いだまま、いや、掴まれたまま海へ来ていた。
自然と離れていく手。
荒い波は私たちの心を映しているかのようだ。
無言のせいで波の音も砂を踏む音も命の音も
全部全部うるさく聞こえて
耳を塞いでしまいたいと思った。
隣にいる望は遠くに見える地平線を眩しさや風に
目を細めてじっと見つめている。
今彼は何を思っているのだろうか。
残念ながら私は心を読めない。
表情で心情を読める能力があれば、と絶対に叶わないことを考える。
「 どこから聞いとった？ 」
波の音に交差するように低い声が隣から聞こえてくる。
つい先程の出来事を昔の記憶を辿るように思い出していく。
「 階段を登っていくと、立ち上がる望が見えた。その後は聞いてたよ 」
「 そっか、ごめんな 」
「 望が神山くんに何を言ったのかそれ以前のことは分からないけど、守られているような、それでいて見捨てられたような、変な気持ちなんだ、今 」
泣いているわけではない。
言葉を覚えたての赤ん坊のように途切れながら話してしまうのは自分でも分からない。
確かなのは何が何だかよく分からない気持ちということ。
「 Aは大事にしたい人おるか？ 」
「 大事にしたい人？ 」
「 分かりづらい？ 」
そう言うと地平線を遮るように目の前に移動すると
私の目をじっと見つめてこう言った。
「 Aが好き 」
恥ずかしくなったのかすぐに私を抱きしめた彼から心臓の音が小刻みに聞こえてきた。
私の心臓音もきっと聞こえているんだろう。
「 初めて会った日から、ずっと好きやった 」
望の声は私の体中に響いて離れなかった。
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ひよこ(プロフ) - むーむーさん» コメントありがとうございます。ドラマ化だなんて私にはもったいないお言葉です！そう言って頂けるとこれからも頑張ろうと思えます。作品を読んで頂きありがとうございました。 (2018年8月29日 21時) (
レス) id: 1c4112a45d (このIDを非表示/違反報告)
むーむー - 素敵な作品ですね！とても面白かったし、ドラマ化してほしいなって思いました(*^_^*) (2018年8月29日 21時) (レス) id: 12552c9479 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ひよこ | 作成日時：2018年7月28日 18時
