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愈史郎と私が接触したのは初めての転生から数年が経った頃だ。巷で彼の絵が話題になり始め、既に私の記憶を失っていた兄上が気になると仰ったので買いに行ったら、描かれていたのは紛れもなく兄上がお亡くなりになった一因である珠世だった。
さすがにお渡しするわけにもいかず、そちらより遥かに値の張る洋画を購入することでその場は取り繕ったが、ふと気になりその背後を辿ること数日。
呼び鈴も鳴らさずノックもせず、ノコノコと入ってきた私にドン引きしながら振り返った彼は、私が何者なのかを理解すると同時に殺しにかかってきた。のは予想できていたので、予め買っておいた珠世の絵画を盾にすることで事なきを得る。
にしても当時齢十一の少女に本気で殺意を向けるなど。まあ、鬼として何百年も生きている彼からすれば、十も九十も変わらぬだろうが。
何食わぬ顔でやあ、と笑んだ私に彼は罵詈雑言を浴びせ、追い出した。その場は引き下がったが、翌日も参って唖然とする彼の前で珠世の絵画にナイフを突きつけ言ってやる。
「冷静になって考えたまえ。私がこうして生まれ変わったということは、珠世もこの世のどこかに再生している可能性があるのだよ」
憎しみにギラついていた彼の瞳に希望が走ったことを見逃す私ではない。
「しかし君は鬼。日の下は歩けない。使いに出していた猫も死んでしまった。となれば、活動は日中であろう彼女を探し出すのは至難の業だろうね」
「……何が言いたい」
「事情を知る、都合のいい『目』が、ここにいるだろう？」
彼が猫のような瞳を見開いた。
「兄上の療養都合で、日本各地の病院を転々とする可能性があってね。君、面白い血鬼術を使っていただろう。あの『目』を使えば、珠世に会える可能性があるだろうさ」
「……何のつもりだ。そんなことをして、貴様になんの得がある」
「そうだね。強いて言うなら、彼女に出会えずやきもきする兄上の仇を肴に酒でも引っ掛けたいかな？」
激昂するだろうと思って言ったのに、彼は思いのほか静かに私を見つめていて、続きを促しているらしかった。
やはり、百年生きていると、見た目は子供でも肝の据わり具合が違うと見える。肩を竦めて、本音を入り混ぜた。
「前世の記憶と結びつく人なんて、君か輝利哉くらいだろうから。嘘を交えず話のできる存在がいると、この小さな体に有り余る心中も、少しは楽になるのだよ」
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