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Aが黙ってポケットから煙草の箱を取り出すと、受け取った炭治郎は目を細めて笑った。
「偉いな!」
「なっ……や、やめてくれないかい!? 兄妹揃って……」
頭を撫でられ、慌てて振り払った。大正の頃、誰もが寝静まった蝶屋敷の屋根の上、竈門禰豆子が同じようにした手が思い出される。
私をなんだと思っているんだ、と言おうとしたAの口に放り込まれる飴玉。
「それ、代わりな。口寂しいだろうから」
「……良いのかね風紀委員。不要物は持ち込み禁止だろう」
「ああ、それは炭治郎じゃなくて──」
口を噤んだ善逸に、Aは肩を竦めた。
「そんなことだろうとは思ったがね。……誰の差し金?」
「い、いやっ!? 差し金なんて、なん、なんのっ」
「そいつは風のお」
「バカバカバカ言ったら殺すって言われてただろーがあ!!」
「ああ彼か……」
なんて嘘がつけない三人だ。炭治郎に至ってはなぜだかすごい顔をしている。
舌の上で溶かされ、砂糖と苺の香料の香りが口の中に立ち込めた。コロコロと転がす。少しずつ小さくなっていくそれ。
Aは柵を背にもたれかかりながら目を伏せた。
「気遣いだなんて要らないのに。莫迦な子だ」
炭治郎は黙ってAを見つめている。
「兄上がお亡くなりになったのは知っているね。私はそれを四百年間繰り返しているんだ。さすがに慣れた。この通り、涙も出ないよ」
「嘘だよ」
彼女の瞳が地面を映している。
「今の君からは、煉獄さんが亡くなって俺の前に現れたときと同じ匂いがする。それも、あのときとは比べものにならないほどの、深くて大きな悲しみの匂いだ」
「……これだから、君たちのことが嫌いなんだ」
Aは乾いた声で応答した。
「どうしてかな。私にとって兄上は、命が賭される状況下において、私の知る前世も合わせた全ての人間が天秤にかかって初めて検討に値するほどの方なのだよ。
そして、何人集まったところで、最終的に兄上を選び取る。それほどかけがえのない大切な方なんだ」
──兄上のいない世界など、私にとっては無いも同然。
「覚えているかね? 鬼を殺す方法は三つ。陽の光に晒すこと、頸を斬り落とすこと、餓死させること」
顔を上げた彼女に陽光が射した。光の粒に照らされて笑う彼女が綺麗に見える。
「私はね、もっと華々しく死にたい」
「──!!」
彼女の両足が浮いた。
「A!!」
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