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鬼舞辻無惨の訃報は瞬く間に職員室内で情報共有がなされた。それは決してAを特別視したものではなく、産屋敷が関与した保障等に対する手続きのためである。
とはいえ気になるのは、心酔していたAの状態。
「おい、鬼舞辻A知らねぇか?」
「葬儀を終えて昨日の今日だァ、来てるわけねぇだろォ」
廊下ですれ違った宇髄に訊かれ、担任の不死川は眉をひそめて答えた。
彼女は他者の参列を拒み、一人の僧侶に供養してもらい火葬するだけという、とても規模の小さい葬儀だけ行ったらしい。
無論無惨の弔いなどしようと思うものは誰一人いない。しかしAのことが気がかりで葬儀に託けて様子を見ようとした悲鳴嶼や煉獄は来るなと一蹴されてしまった。
無惨の骨が誰も知らないAだけの墓に納められてから丸一日経っていないのだ。が、宇髄は首を振る。
「靴があったぞ。下駄箱に」
「!」
ホームルームにはいなかった。無論、その後の授業にも一コマたりとも出席していない。
目を見開いた不死川は、一瞬のうちに思考を巡らせた。
刺さるような冷たい風に乗って煙が流れていく。
Aは屋上に来ていた。年齢を偽って買った煙草を吸い込み、肺を焦がす。ただ黙って街並みを見ていた。
屋上に上がってくる複数の足音が聞こえてきた。指先で火を消し、ぽいっと柵の向こうに捨てる。
「ここにいたんだな、A」
「なんの用かね。炭治郎君と愉快な仲間たち」
茶化して煽るが善逸も伊之助も乗ってこなかった。つれないなぁ、と肩をすくめる。
「煙草を吸っていただろう」
「なんの事かな」
「俺は鼻が利くのも、善逸は耳がいいのも、知っているだろ?」
知っている。というか、今世で再会したときもそれでバレた。
一年生の教室を彼らが訪ねてきた日、机の影にコソコソと隠れてやり過ごそうとしたところを捕まったのだ。あのときの要件は「自分たちも産屋敷の意向に従う」「これからは後輩として接していく」なんてことをわざわざ伝えにきたんだったか。
「煙草は駄目だ。体に良くない」
「知っているさそれくらい。前世は医者だぞ」
「じゃあはい、残りの煙草」
手を差し出してきた善逸を睨みつけると、彼は竦み上がって伊之助の後ろに隠れた。
「ヒィッ!? ししししょうがないだろ俺風紀委員なんだからぁ!」
炭治郎が歩み寄ってくる。後ずさるが柵に阻まれた。
優しい目をして困ったように微笑む彼が、手を差し伸べてくる。
「A。今出せば、先生たちには黙っておいてやるから」
「……」
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