肆 ページ5
夜闇を牛耳るポートマフィア。聞いたことがないはずが無かった。
「神様……」
ぽつりと呟いた。神様も、困った時ばかり頼られたのでは助ける気にもならないだろう。ただ、これからは祈る頻度は段違いに上がる。そんな予感がしていた。
祈り続けて数十分後、人の気配を目の前に感じた。目を開けてその先にあるのが銃口でないことをまた祈り、そっと仰ぎ見る。
そこにいたのは予想通り中原さんであったが、その顔は予想に反して曇っていた。いや、これは……哀れみ?
「……ダメ、でし、たか」
喉がひりついた。絶望を滲ませた私の問いかけに、中原さんは「いや……」と言葉を濁らせた。
「手前、美容師でいいんだよな?」
「え……? は、はい。一応は」
「あー……じゃあ、……歓迎するぜ。ようこそポートマフィアへ。名前はなんて言うんだ?」
中原さんはしゃがんで私と視線を合わせ、目を見開く私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。どこか含みのある言い方に引っかかったけれど、それよりも助かったという実感が心を駆け抜けて、頭を撫でる手に鼻の奥がツンと痛くなるのを感じた。
「っ……。わ、私……AA、です……助かっ、た」
「……。そうか、よろしくなA」
言いながら、中原さんが私の手首の縛めを解いてくれる。鼻をすすってお礼を言い、それからおそるおそる聞いてみる。
「あのう、それで……私、どんな仕事を……?」
「あぁ。
「ぼ、ボスチョッカツのユウゲキ部隊……?」
「の、美容班」
「ビヨウハン……???」
脳の処理が追いつかず、再び私は鸚鵡と化す。ポートマフィアに、美容班なんて必要なの……?
だけど、中原さんは真面目な顔をして話を続ける。
「ちなみに、ついさっき設立された。手前が班長だ」
「私が……ハンチョウ……。ボスチョッカツのユウゲキ部隊の……ついさっきできた美容班の……」
駄目だ、言えば言うほど頭が混乱する。
中原さんは両手で私の肩をぽんと叩き、顔に同情を浮かべてこう言った。
「業務内容は、その遊撃部隊の隊長の髪の手入れだ。……励めよ」
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雪 - このお話大好きです!文章もお上手で読みやすくてすらすら読んでしまいました!無理のない範囲での更新お待ちしています。 (2021年1月12日 3時) (レス) id: 0255e6d75f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夕べの宝石 | 作成日時:2021年1月2日 0時