検索窓
今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:543 hit

ページ5

夜闇を牛耳るポートマフィア。聞いたことがないはずが無かった。

「神様……」

 ぽつりと呟いた。神様も、困った時ばかり頼られたのでは助ける気にもならないだろう。ただ、これからは祈る頻度は段違いに上がる。そんな予感がしていた。

 高層建築物(ビル)の外にしゃがみこみ、私は縛られたままの両手を組み合わせている。中に入るか聞かれたが、丁重に断った。外の空気は微かに潮の香りがして、横浜育ちの私の心を幾分か慰めてくれたからだ。

 祈り続けて数十分後、人の気配を目の前に感じた。目を開けてその先にあるのが銃口でないことをまた祈り、そっと仰ぎ見る。

 そこにいたのは予想通り中原さんであったが、その顔は予想に反して曇っていた。いや、これは……哀れみ?

「……ダメ、でし、たか」

 喉がひりついた。絶望を滲ませた私の問いかけに、中原さんは「いや……」と言葉を濁らせた。

「手前、美容師でいいんだよな?」
「え……? は、はい。一応は」
「あー……じゃあ、……歓迎するぜ。ようこそポートマフィアへ。名前はなんて言うんだ?」

 中原さんはしゃがんで私と視線を合わせ、目を見開く私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。どこか含みのある言い方に引っかかったけれど、それよりも助かったという実感が心を駆け抜けて、頭を撫でる手に鼻の奥がツンと痛くなるのを感じた。

「っ……。わ、私……AA、です……助かっ、た」
「……。そうか、よろしくなA」

 言いながら、中原さんが私の手首の縛めを解いてくれる。鼻をすすってお礼を言い、それからおそるおそる聞いてみる。

「あのう、それで……私、どんな仕事を……?」
「あぁ。首領(ボス)直轄の遊撃部隊だ」
「ぼ、ボスチョッカツのユウゲキ部隊……?」

「の、美容班」
「ビヨウハン……???」

 脳の処理が追いつかず、再び私は鸚鵡と化す。ポートマフィアに、美容班なんて必要なの……?
 だけど、中原さんは真面目な顔をして話を続ける。

「ちなみに、ついさっき設立された。手前が班長だ」
「私が……ハンチョウ……。ボスチョッカツのユウゲキ部隊の……ついさっきできた美容班の……」

 駄目だ、言えば言うほど頭が混乱する。
 中原さんは両手で私の肩をぽんと叩き、顔に同情を浮かべてこう言った。

「業務内容は、その遊撃部隊の隊長の髪の手入れだ。……励めよ」

伍→←参



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (3 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
3人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

- このお話大好きです!文章もお上手で読みやすくてすらすら読んでしまいました!無理のない範囲での更新お待ちしています。 (2021年1月12日 3時) (レス) id: 0255e6d75f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:夕べの宝石 | 作成日時:2021年1月2日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。