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突然、視界にかかっていた靄が晴れるような感覚を覚えた。そうか、人も、時間の流れの違いに戸惑うのだ。
「祖国、私と離れていた時間はどのくらいに感じていたのかな。私はそれと同じ時間で、37歳になって、また同じ時間で52歳になって、その次は……。ねえ、きっとすぐにしわしわのおばあちゃんになってしまうよ」
Aちゃんは辛そうに目を閉じた。僕の目は自然とこの小さな部屋のあちこちに移動した。彼女の15年はどのくらい長いのだろう。ボロボロになった本が並ぶ本棚を見て、ふとそう思った。彼女は続ける。
「そんな姿は貴方にだけは見られたくない。なら、貴方が綺麗だと言ってくれたこの姿で、貴方の記憶に残りたいんだ。だから、だからもう、会いたくない」
「僕……君がどんなにしわしわになっても構わないよ。あの夜の君も、今の君も、きっとおばあちゃんになった君も、僕には変わらずAちゃんなんだもの……」
立ち上がってゆっくりとAちゃんの傍に移動した。Aちゃんは目を開けようとはしなかった。その首が力なく横に振れる。
「祖国、あの夜もね、私は怖かったんだよ。でも貴方が助けてくれた。貴方が抱きしめてくれたから、……傷を舐めてくれたから。だから」
そう言うと、彼女は少しだけ笑顔を見せた。そっと開かれた目が僕を捉える。そこにはかたくなな色が潜んでいるように思えて、僕は思わず息をとめた。Aちゃんの言葉の続きを待ったけど、彼女も僕が諦めるのを待っているかのように黙っていた。
「……いやだよ。僕、僕……」
身体が火照り始めたような気がした。僕を浮かす熱が、白い月が、空っぽの部屋が、急に目の前に広がっては消える。熱くて、胸が詰まって。
……気づくと僕はAちゃんを抱きしめていた。彼女はあの夜と変わらず、すっぽりと僕の腕におさまるくらい小さかった。
「お願い、僕を嫌いになったんじゃないなら、僕のこと置いていかないで。まだ、冬になると寒いんだ。ひとりは寒くて耐えられないよ……」
このまま帰ってまたひとりで過ごす冬を想像すると、ずきんと頭が痛んだ。Aちゃんを忘れていた時はひとりで寒さを耐えてきたのに、彼女を前にした今ではそれが不可能なことに思われた。身勝手だと罵られる覚悟で、僕は小さく懇願した。
「お願い、冬だけでいいから、一緒にいて。僕と友達になって……」
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夕べの宝石(プロフ) - 亜理紗さん» コメントありがとうございます。不定期に更新しますので、お暇な時に読んでいただけると嬉しいです。 (2020年12月29日 1時) (
レス) id: 9d709d1c0a (このIDを非表示/違反報告)
亜理紗 - 素敵な作品でした、更新待ってます！ (2020年2月15日 14時) (レス) id: f5ce1e3e52 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夕べの宝石 | 作成日時：2019年9月25日 23時
