我儘:Teokun ページ5
午後9時、缶酎ハイを片手に携帯を弄る私は数分前に来た彼からのメッセージをただ目で追い、溢れ出そうな想いをお酒と共に飲み込んだ。
ごめん、今日行けない。
撮影が入ったんだろう。それか同業者さんの飲み会かな。いずれにせよ私よりも優先順位が高い事に間違いはない。再度缶をぐっと煽ると鼻の奥に抜けるアルコールの香りがどういう訳か自らの涙腺に作用する。泣くな。こんなことで。彼と付き合うと決めた時その覚悟を持って返事をしたのに今更弱音なんて吐けるわけない。何度瞬きしても変わらないメッセージをホームボタンのワンプッシュで閉じ、冷蔵庫から次の缶を取り出した。
『...ぐすっ、』
酔いが回れば回るほど、理性の糸は脆く儚くアルコールに溶け出し弱い心が顕になる。鼻の頭が熱くなり喉がきゅうっと締め付けられると同時に涙がこぼれ落ちた。寂しい。会いたい。
彼が忘れていったパーカー、洗濯して綺麗に畳んだけどちょっと借りよう。膝に乗せて顔を埋めるとほんの少しだけ存在を感じられた気がした。
頭の上に何か重さを感じて意識が現実に戻ってくる。どうやら膝を抱えたまま寝ていたらしい私の頭の上に覚えのある暖かく大きな手が乗ってる。ゆっくり顔をあげると会いたかった彼がそこに居た。
「ごめん、来れた。」
嬉しそうに、でもどこか不安そうに微笑んだ彼は私の隣に胡座をかいて座った。未だぼうっと夢心地の私を見てコツンと肩をぶつける。
『...大揮?』
「うん。待ってた?」
『...うん、待ってた。』
「ありがとう」
よしよし、いい子だねとふざけながら私の頭を撫でる彼を見てようやく現実味を帯びてくる。
『用事だったんじゃないの?』
「先輩に誘われた飲み会。行ったら知らない女の子が居たからAに会いたくなって帰ってきた。ごめんね?」
『ううん、ありがとう。』
へら、と笑った私を見て酷く苦しそうな顔をした彼は次の瞬間にっこり笑って口を開いた。
「優しいAの我儘3つ聞いてあげます。どうぞ?」
『3つも?』
「そう。何がいい?」
『じゃあ...そこにお邪魔してもいいですか』
指さしたのは彼の胡座の上。お返事の代わりに彼は私を引き寄せてくれた。
「次!」
『ぎゅーってして欲しい』
彼は何も言わずきつく抱き締めてくれる。
「最後は?」
『...私の事、好きでいて欲しい』
耐えきれなかった涙を指で受け止めてくれた彼は耳元ではっきりと答えてくれた。
「大好きだよ」
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むう - めちゃくちゃ大好きです!これからも応援してます! (2022年5月7日 22時) (レス) @page37 id: 0b4c79d36c (このIDを非表示/違反報告)
ぴあ(プロフ) - りあさん» ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします! (2020年12月11日 17時) (レス) id: e3e12464ab (このIDを非表示/違反報告)
りあ(プロフ) - モーニングルーティンの小説とても好きです。これからも更新楽しみにしています。 (2020年12月8日 16時) (レス) id: 1311488687 (このIDを非表示/違反報告)
ぴあ(プロフ) - かりんとうさん» 具体的なシチュエーションなどはございますか。あれば助かります。 (2020年11月3日 15時) (レス) id: e3e12464ab (このIDを非表示/違反報告)
かりんとう(プロフ) - 初めまして、良ければワタナベマホ君の小説を書いて欲しいです!! (2020年10月30日 10時) (レス) id: 4f5e255211 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴあ | 作成日時:2020年3月11日 21時