12口目 ページ13
｢ただいま…｣
病院を出ると辺りはとうに暗かったので、俺はチャリを全速力で漕いで帰宅した。
家に入ると、すき焼きの匂いが漂ってきた。
ぐぅと腹の虫が無く。
にしても、帰ってきたら夕飯ができているとは嬉しいものだ。
案外、あのインキュバスと契約して正解だったのかもしれない。
｢ただいま、イル〜
あー、腹減っ…｣
…いや、前言撤回だ。
｢おかえりなさいませ、ご主人様｣
｢おっ、おかえりぃ♡｣
｢初めましてAくん、お邪魔してるよ。｣
リビングに入ると、イルを含めた3人が土鍋を囲んでいた。
いや、あの2人誰だよ…
よく見れば、
イルと同じ形の翼や尻尾を生やしているから、
恐らくこいつらも悪魔なんだろうが…
イルめ勝手なことしやがって…
内緒で身内を主人の家にあげるとかどういう神経してんだよ…
俺は無言でイルを睨みつけると、イルはにっこりと笑って、まるで幼い子供を宥める母親みたいな口振りで言った。
｢ご主人様の分はちゃんと残してありますから…｣
｢は？そういう問題じゃあねーんだよ！！｣
あぁ、イライラする…
｢AくんAくん、はいあーん｣
悶々とする俺の口に、前髪を切り揃えたおっとり気な悪魔が肉を放り込んだ。
｢…むぐ……｣
溶き卵に包まれた脂身の多い柔らかい肉。
噛むと繊維が解れ、甘塩っぱいつゆが溢れる。
へぇ、まぁ…おいしいじゃん…
｢…うまい｣
｢お、そうだろ？この肉めちゃくちゃ高いんだぜ。
Aくんが喜ぶと思って奮発して買ってきたんだよ♡｣
｢そうそう、だからねAくん。
どうか、俺らのことしばらく匿ってくれないかな？｣
｢…匿う？！｣
俺は放り込まれた肉を咀嚼しながら聞き返す。
なんか不穏な言葉が飛び込んできましたけど…
｢ん〜
ちょーっと…こっちにおいで、Aくん。
あんまり大きな声で言えない話だからさぁ〜…｣
｢うぉっ！？｣
もう1人の赤髪で気分屋そうなインキュバスが突然俺の腕を掴む。
土鍋の正面に連れてこられた俺は何故か2人のインキュバスの間に座らされる。
俺の正面には鍋を混ぜるイルが座っていた。
てか
狭っっ…
そして近っっっ…
イルもそうだが、この2人も近くで見ると本当に顔が整っている。
くそ、イケメンが…
悪魔ってそういうもんなの？
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作者名：みゅん | 作成日時：2020年4月25日 8時
