10口目 ページ11
イルのいない学校帰り。
俺は自転車に乗っていつもの帰り道とは反対の道を通って行った。
行先は 病院 だ。
俺は病院のエレベーターに乗り、3階のボタンを押した。
アイツの病室はエレベーターを降りて左側の廊下の、3番目の部屋だ。
病室の立て札には"
…俺の唯一の友人だ。
俺は病室の扉の前で少し深呼吸して、中に入っていった。
｢…晴人？｣
白く無機質な部屋に明るい茶髪の少年が1人、ベッドの中で横たわっている。
こいつが、瀬尾晴人。
俺の声に気づいた晴人は嬉しそうに笑って、上体を起こした。
｢A…！
いつもいつも、ありがとう
お見舞いにきてくれて。
一日おきに来てくれてるけど、無理してない？｣
｢お、おう、大丈夫だよ。｣
今日はあいつもいないし、と心の中で呟く。
｢俺の事はいいからさ。
その、病状は…どう？｣
｢うん、悪くは無いよ。
今朝もリハビリ、ちゃんとできたし…｣
晴人は少し珍しい病気を患っているらしい。
下半身が不自由になる病気だそうで、
ある日突然ぱったりと歩けなくなってしまった。
…後天性というやつだ。
どんな病気なのか、俺も理解してあげたいのだが、
晴人は頑なに教えてはくれない。
聞いても適当にはぐらかす。
まさか、余命でも宣告されたんじゃないかと最近はヒヤヒヤし始めている…
でも、晴人の反応を見る限り、今日は元気そうだし、大丈夫か…
｢…晴人、林檎食べたい？｣
俺は棚に置いてある林檎を手に取った。
｢…うん、食べたい！
A、剥けるの？｣
｢剥けるし！
馬鹿にすんな！｣
俺は棚から小型ナイフを取り出し、少しずつ剥いていく。
｢あ〜…
A、林檎がガッタガタだよ。
ギリシャ遺跡の柱みたい。｣
｢どんな例えだよ…
仕方ないだろ
このナイフちょっと切りにくいんだよ…｣
俺がそう言うと晴人は楽しそうに笑った。
ふと、晴人が俺の手元に顔を近づけたとき、
一瞬にしてその表情が曇った。
｢…は？｣
と、小さく呟き
それから俺の腕あたりに顔を近づけ、すんすんと匂いを嗅いでいる。
｢な、何してんの晴人…？｣
奇妙な晴人の行動に若干引き気味になりながら、ナイフを置いた。
晴人は俺の顔を見上げると一言、
｢…くさい…｣
と言った。
｢くさ…！？｣
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作者名：みゅん | 作成日時：2020年4月25日 8時
