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「宿舎に戻るね〜また明日」
と、その場を離れようとするとギノさんに手を掴まれた。
無言が続いた。
「ちゃんと変われてるじゃないか、頑張ってるな」
頭を撫でてギノさんはその場を去った。
あたしが変わるしかない、そう教えてくれたのはギノさんだったな...自分は変われるんだと知った。
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狡噛さんは度々、部屋を訪れた。
新しい本はあたしには難しく、狡噛さんはこういうのが好きなのかと知る。
「あたしの本、こういうの読む人は退屈じゃない?」
「普段読まないというのは普段買わないという事だ。人から借りて読むくらいが丁度いいんだよ」
「ストレートに言うと買う価値ないって事じゃない」
「違う取り方もあるぞ?借りて読むと意外と新鮮だって事だよ」
2人で静かな部屋の中、読書をする事が増えた。
たまに読んでいて眠ってしまう事もあって、念のためシャワーを浴びて着替えてから来る事も増えた。
「泊まる気満々じゃない?」
「俺はソファーでも熟睡できるんだよ」
でも、それを佐々山が見逃すはずもなく...ギノさんの耳に入るのは早かった。
延々と説教が続く...この時から、口癖の様に監視官は執行官と線を引け、と言う様になった。
ただの犬だと...
あたしを見る目つきも険しいものに変わった。
ただ一つ変わらないのは、それでも狡噛さんは気にせずに来てくれた。
「お前は執行官であっても犬ではない、人だ。人以下の扱いなんてする気はない。こうやって本を読みに来る様になって、不思議と色相が安定しているしな」
「それも聞いたの?」
「ギノからな。だから、俺も試しに自分の色相を毎日見てみたんだよ。俺には酒よりこういう方がストレスケアになってるんだ...ギノもお前に気があったんじゃないか?ただの嫉妬だ」
「...ならここに呼んであげれば?」
聞こえないフリをして彼はまた目を本に戻す...
あたしも読もうとした時に言われた。
「...お前がどちらか選べば早いんじゃないのか?」
「線引きしろなんて言う人だよ?寧ろどちらも線引きしなきゃいけないんじゃない?...監視官なんだし」
気がつくと狡噛さんはすぐ横に立っていた。
「関係が許されなくても、ギノを選ぶ事も許可しないけどな。A?」
「え?」
彼は珍しくベッドに寄りかかって本を読みながら眠った。
言葉の通り一線を越えずに、あたしを箱入りのまま守るつもりらしい。
ギノさんは、それも許すとは思えないんだけどな...
執行官が選んでいい立場ではない、未来すらもないのだから。
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作者名:馨 | 作成日時:2020年3月19日 12時