耐え難い事実 ページ10
人じゃない。目の前にいるコレは人なんかじゃない。自分の腕を噛みちぎって？そんなの正気の人間がやることじゃない。コレだって自分がなんなのかすら分からないのに、こんなところで文字にならない声を上げて、走り回って、自分の体を食べて･･･
「う゛、ぐっ･･･」
急な吐き気が襲い、その場でうずくまる。口に手を当てると、胃液がびちゃりと手のひらに付く。
「っ、くぁっ･･･う゛ぅ･･･っ」
「･･･ギブアップするか？」
「っはぁ、はぁ･･･いえ、大、丈夫です」
「よく耐えたな。じゃ、地下二階に進むで」
考えたらダメだ。もう人間なんてことをここで考えたらダメだ。全員狂ってる。
「こっちは、完全に発狂したヤツらを更生する施設や。ここでは人の笑顔や怒った顔や泣いた顔を見せて感情を取り戻す。ここで戻らなかったら肉体労働させて一生を終えるんや。戻ったやつはどんな事をすれば人は喜ぶのか。どんな事をすれば人は嫌がるかを教えるんや。理解し始めたら言語の取得、肉体の回復、そして道徳心を徹底的に身につける。そうやって社会に戻すんや」
「なる、ほど･･･」
「あんま深くは追わない方がええんやけど、ここで一人俺らの仲間が亡くなっとるんや」
「･･･え」
「言語を習得する時に、どうしても教えんとならんくてな。そんときに、再発狂したヤツらに襲われて血まみれになって食べられてた」
「･･･うっ」
「吐くか？」
「いえ･･･」
「俺らにも危険性があるんや。だから怖さなんて持ってたら仕事にならん。俺らには捨てなきゃいけない感情が多いんや。特に恐怖心はな。ショッピはまだ怖いやろ？」
「もちろん怖いっすよ･･･」
「なら大丈夫や。さ、戻るで」
続く
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作者名：コロッケさん | 作成日時：2020年3月31日 11時
