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100万回目の告白 10 ページ10






3月上旬、俺は第一志望の大学から無事合格通知を受け、卒業式に向けて何度も歌った校歌なんかを練習させられていた。

国立大学の合格発表日は、卒業式の翌日で
その一大ニュースは、すぐに俺たちの耳に入った。


_____東大がひとり出たってよ。


その事実が俺たち卒業生だけじゃなく、学校中に広まるのはあまりに早く、先生たちももちろん大喜びだった。

けれどもその話が俺らの学年のほとんどにとっておかしなものだったのは

東大に合格したひとりというのが
東大志望というのがある種有名だった鎌田

_____ではなく、

その隣でいつも馬鹿にされ、小さく笑っていただけだったAであったことだ。


あの子も東大志望だったの?
全然知らなかった。
ていうか頭よかったんだね。
そんなイメージ、ないのにね。


あいつの名前がそうやって囁かれてることをなんとなく知っていた。

それに対して俺は心の中で、
だってあいつは本物やもん、天才なんやから。
そう、つぶやいた。

……ただ、その東大合格は、
あいつにとって、天才少女の彼女にとって、

痛い、失敗だったのだ。



前期入試で不合格だった鎌田は、どうやら後期も東大を受けたらしいけど、残念ながら現役合格は叶わなかった。

彼女を隣に侍らせ、常に見下していた。
優しい口調の中に、下のものを扱うような態度が滲み出ていた。

そんな鎌田がAに、どんなことを思ったのか、俺は想像できる気がした。


俺の実家に、あいつがボロボロの状態でやってきたのは、俺が上京準備をほとんど終わらせていた3月の後半で、確か後期入試の合格発表から1日や2日後だった。


「……間違っちゃった…」


あいつは泣いていた。
顔に殴られたような痕があった。


「A!鎌田か?あいつが殴ったんか?」

「……ちがうの、わたしが…」

「何がちゃうねん!お前泣いとるやないか!」

「わたしがいけないの……!」


玄関先で大きな声を出した俺に気づいたオカンが、Aを居間にあげ、傷の手当てをしてくれた。

俺は、涙が流れ続けるあいつの話を聞いていた。


「……鎌田君が、私がいないとダメって言ったの…だからわたしは同じ大学に行けばいいんだと思ったの……」


顔にガーゼをつけたあいつが、不恰好だったのをよく覚えている。


「……ずっと隣で見下してたのかって。落ちた俺を嘲笑っているのかって。大した勉強もしないで、高みの見物をしてたんだろって」


大きな目からぼろぼろと溢れる涙は大粒だった。

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作者名:猫彦 | 作成日時:2021年2月20日 11時

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