100万回目の告白 1 ページ1
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「はぁ?」
そいつの言葉を受けて、まず出た言葉だった。
なんでこんな状況に自分がいるのか、俺はまるで覚えていない。
いつものように目を開くと、そこに立っていたのはすらっとした長身に、なかなか端正な顔立ちをした若い男だった。
「せやから、あなた、死んでしまったんですよ」
俺より少し年下だろうか。自分と似たような関西訛りのある話し方と、舌足らずな声に気味の悪い既視感を覚える。
「んでま、あの、条件があったんで、ひとつだけやり残したことができます」
頭が痛い。もっと的を得た説明はできないのだろうか。
「……冗談はもうええ、あんた誰?今どういう状況なん?」
「あ、冗談ちゃいますよ。村上信五さんですよね。あなた、さっき亡くなりはったんです」
そいつが言った名前はたしかに馴染みある自分のもので、ふっくらした唇を噛みながら、古そうな分厚い本をめくっているそいつにふつふつと嫌悪感が湧き上がる。
…あかん。キレるな。
怒ったらあかん。
「死んだって、いったい俺がなんで死ぬねん」
小さい頃から殆ど風邪なんて引いたことがない。怪我の類も全くだ。健康で丈夫で、明るくて。だから俺は、自信を持ってあいつに向かっていた。
「やー、あれはしゃあないですよ。高速で後ろからトラック突っ込んできたんですもん。向こうの運転手も高齢やったって話ですけど。ま、でも村上信五さんは立派でしたよ。助手席の彼女、守りはったやないですか」
「……は?」
ズキズキと痛んでいた頭が、少し冷静になってきた。朧げな記憶が徐々にはっきりしてくる。
ああ、せやった。
あいつに海、見せたろと思ってたんやった。
「ほんまいい加減に免許返納のアレ、考えた方がええよな〜って僕、思ったんすよ」
海なんて見て、何が楽しいの?
あいつは確か、不機嫌な顔でそう言って、夏だっていうのに長袖のパーカーなんて羽織って。
渋々助手席に乗り込んだかと思ったら、運転する俺に目もくれずに身体ごと窓の方へ向けてしまっていた。
「……Aは」
「え?」
「あいつは、Aは無事なんか?!」
俺はそいつの肩を掴んでいた。
華奢に見えて、案外しっかりとした体だった。
「わからないんすよ、僕の仕事は、村上信五さんの未練を一つ晴らすことだけなんです」
そいつはケロッとした顔でそう言った。
なんでこいつ、いちいちフルネームで呼ぶねんと舌打ちをする。
俺はなんだか、すごく苛立っていた。
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作者名:猫彦 | 作成日時:2021年2月20日 11時