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家の鍵を開ける。
暗い玄関で手探りで電気をつける。
そのままキッチンの水道で手を洗った。
「……おかえり」
「ヒィッ」
「ヒィッってことないやろ、おばけちゃうねんから」
「なんで……」
昨日と同じ服を着て、昨日と同じように君が部屋にいる。私はついに頭がおかしくなってしまったんだろうか。
「おれ、生きとった？」
「……はい、生きてます」
「そっか、よかった」
妄想の具現化……オカルト的なものにあまり親しみがないもので、幽霊と言うよりはその方がわかりやすい気がした。
「横山先生っ……は」
「ん？どした？」
「なにか……後悔してますかっ…」
「…うーん」
どうしてそんなことを聞いたんだろう。
私の妄想の具現化である目の前の君は、どうせ私の頭で思いつくことしか、返してくれないのに。
「後悔…しとるからここにおるんやろなぁ」
「……」
「A先生ともっと仲ようなりたかった…………とか……？」
妄想にしては流暢な君が
目を逸らして頭を掻きながらそんなことを言うから、ついこれがまるで本物の君だと錯覚した。
「Aちゃん」
「ぅえ！」
「……セクハラ？」
私はぶんぶんと首を横に振った。
「もう同僚でもないし、…ええかなーって……」
「……本当に、本当に横山先生みたい」
「え？」
「ついさっき、眠っている横山先生を見たばかりなのに……私の部屋に横山先生が来るはずないのに…」
「…おれも、よう分からへんねんけど、さ」
目の前の君が語る。
君は魂のような存在なんじゃないだろうか。
一般的な言葉を使えば生き霊のようなもので、強い未練や執着が、君の身体から離脱したような。
君の話が本当なら_____
「……たぶんな、あんま時間ないんやと思う」
何を意味しているか、わかってしまった。
覚悟はしているじゃないか。
君に二度と会えなくなってしまうことは、もうたぶん、決まっている。
「なんとなくやけどな、そう思うねん」
そんな顔をしないで。
君はそんなふうに悲しそうに笑う人じゃない。いつだって子供みたいに笑っててほしい。
「残された時間をさ、Aせん…A、ちゃんと過ごしたいん、かな。おれは」
もう、どうでもいいかもしれない。妄想でも夢でもなんでも、こうしてまた君に会えた。残された明日があるなら、それを語り合うことだって許されていいはずなのだ。
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作者名：ねこひこ | 作成日時：2020年3月2日 2時
