DUSTBOX0.0 (ページ9)

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溺るる、さむがり　2 ページ9

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シンと冷えた部屋で、わたしだけが体温を持っている。毛玉だらけのブランケットを掛けて、オレンジ色の照明の中で目を閉じたくなる。

「しょうちゃん……きみは…」

「ちゃんとベッド行かな、風邪ひくで」

「きみは………いったい、どんなこどもだったんだろうね………」

閉じ掛けた瞼の隙間から見えたしょうちゃんが
少し悲しそうな顔をした。

なんだか懐かしい夢を見た。

まだランドセルを背負ったわたしが声を上げて泣いている。手を引いてくれたお兄さんは学ランから伸びる細い手で、わたしの頭を撫でてくれた。

ニコニコと笑う。
細いからだ。

ああ、しょうちゃんみたいだ………

確かそう、あの交差点で………

「寒ぅ」

朝は特に冷えると言うのに、ソファで寝落ちしていた。少しだけ喉が痛む気がして、やっちまったなと頭を掻く。

昨日見た夢ははっきりと思い出せないけれど、なんだか懐かしい夢を見たんだと思う。電車で1時間もかからない地元に帰りたくなった。

小さな駅から17分歩く。
通学路にしては車通りの多い交差点。
電信柱に貼られたボロボロのチラシ。

ああここ、信号ができたのね。
死角があるこの交差点は、通学路なことも相待って事故が多発していた。確か、わたしが小学校の時、中学生の男の子が事故で亡くなったと言う話があったと思う。

中学から県外に通っていたわたしは、この交差点に信号がついたことも知らなかった。LEDじゃないから、さほど最近でもないのだろう。

久しぶりに帰った実家は暖かく感じた。人のいる家の温度は、わたしの住むあの部屋とはまた違う。

母が数年ぶりに顔を見せた娘に目を丸くしていた。

「帰ってくるなら連絡のひとつ入れなさいよ」

「ごめん、でもすぐ帰るから」

「こないだお兄ちゃんも突然帰ってきたのよ」

「へえ、珍しいね」

「Aほどじゃないけどね」

久しぶりに母の笑った顔を見た。
随分と老けてしまったように感じた。

「あ……お母さんあのさ、そこの交差点、綺麗になったんだね」

「あ～三丁目のとこ？危ない通りだったもんねえ……。安田くん、かわいそうだったわ…」

「亡くなった子？」

「ああ、覚えてない時期かな？あんたも可愛がってもらってたんだよ。確か…章大くん、四つ歳上の」

「………」

「今となっては、Aの病気はそのショックが原因だったのかもね」

近所の花屋さんに寄って、２つ花束を買った。
ひとつは交差点に、もう一つはしょうちゃんにお土産。