魔法のケーキ屋さん2 ページ7
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ケーキ屋さんは安田さんと言うそうだ。
みんなが笑顔になれる魔法のケーキを作りたいねん、とぴかぴかの前歯をのぞかせながら語る。
ふわふわの明るい髪の毛は、すっかり日が落ちてしまった住宅街でも私の灯りになってくれた。
安田さんは隣で歩くとほんのりいい香りがした。甘くてさわやか。そっか、ケーキ屋さんだもんね。わたしは気づかれないようにその匂いをずっと嗅いでいた。
「Aちゃんは、最近迷子やったの？」
安田さんの言葉はどこか不思議で、迷子になったのは今日たまたまの話だけど、ここ最近わたしに押し寄せていた悲しくてほろ苦い出来事を全てお見通しみたいだった。
「バニラエッセンスって苦いねんな、だけどね、ちょっと垂らすと美味しくなるねん。悲しいこともきっとAちゃんの人生の隠し味になるよ」
「随分、素敵なことを言いますね」
喋り方が好きだな、と思った。優しいけれど甘ったるく無い。苺のタルトみたいだ。
甘酸っぱい。胸がきゅうっとする。
恋の味だなぁ。
安田さんが素敵なことを言うもんだから、わたしもまたクサイことを思いついてしまう。
「あの」
「んー？どした？」
首を傾げたその顔も好きだ。
「今度ちゃんとケーキ買いに行ってもいいですか？」
「おん！もちろんやでぇ」
景色が突然開けたように知っているものになった。こんなところを歩いていたんだ。
「じゃあ、またね。もう迷子になったらあかんで？」
最後に安田さんはわたしの頭をぽんっと撫でた。
安田さんの手から甘い香りがふわっと香る。
駅前の大通りの混沌とした雰囲気に安田さんは似合わなくて、わたしは名残惜しくも手を振って家に帰る。
夢のようにきらきらした時間だった。
朝起きても、わたしは安田さんの匂いを覚えていて、すぐにケーキを買いに行こうと思った。
_____あれ、どこで曲がったんだろう。
今になって思えば、この辺りは再開発もされていないような古いアパートや一戸建てが並び、
あの時自分がどうして迷ったのかも分からないくらいに駅から近いのに。
わたしはどこに安田さんのケーキ屋さんがあるのか、分からなくなってしまった。
決して愛想の良くない通行人に話しかける。
「あの、この辺りのケーキ屋さんを探してるんですけど……」
その人は不審そうな顔をして、
「……駅前まで行けばコージーコーナーがありますけど」
と呟いた。
迷子じゃない私はあのケーキ屋さんに辿り着けない。
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作者名：ねこひこ | 作成日時：2020年2月13日 21時
