魔法のケーキ屋さん1 ページ6
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なにかおかしいなと思っていたのだ。
そろそろこの町に住み始めて1年が経つのに、駅近の自分の部屋と駅、それから駅前のスーパーの往復を繰り返してばかりだった。
たまの休みに、運動でもするかな。
勉強が嫌いな代わりに脚は昔から早かったもので、50m走で7秒を切っていることは永遠に武勇伝である。
そんなわけでランニングコース開拓を兼ねてふらっと散歩に出たのがつい小一時間前のことだった。
川沿いを歩くと春の風になってそろそろ夏らしい匂いがしてくる。ああ、ここに越してきた時もこんな匂いがしたっけ。
この一年で起こったことが目まぐるしくて、思い起こすだけで涙が滲んだりしてしまう。
どこで出会った誰だって、それはきっと縁なんだから。と、誰に話すでもないクサイ言葉を思い浮かべては自分の足を進めていた。
_____ん？……ここは、どこだ？
ここで冒頭へ戻る。
何かがおかしいのだ。
やっとスマホを見るとあろうことか圏外で、何度か再起動をしても電波を拾うことはできなかった。
嘘でしょ？一駅で東京に出れる街よ？ど田舎じゃないんだから…………
いつまで経っても圏外のままのスマホに向かって小さく舌打ちをした。あたりは少しずつ暗くなっている。春先とはいえ夜は冷え込む。これからどんどん暗くなる。
住宅街のくせしてほとんど人通りがない。
この辺は女の子が夜にランニングするには向かないかもな、と何故か冷静に分析していた。
ぼや、っと暖かい光に吸い寄せられるようだった。
「……っわ、かわいい」
こんなひとけの無い住宅街に、おとぎ話のように小洒落たケーキ屋さんが現れた。
緑で覆われたレンガの外壁。
オレンジ色の暖かい灯り。
ドアにかかった黒板のプレートにはOPENと筆記体で書かれていた。
ドアを開けるとかららん、と澄んだ鐘の音がした。
「あら？いらっしゃいませ〜。珍しいなぁ。かわいい女の子のお客さん」
その店主は人懐こそうな笑顔をわたしに向けてくれた。ほわほわとした動きになんだかホッとした。
「あの、すみません…ここから駅前の大通りって……」
わたしはかくかくしかじかで迷子になったことを店主に伝えるとキラキラとした瞳から星が飛んだように彼は笑う。
「一緒に行きましょ、こんな時間にひとりで歩くのは危ないもんなぁ！」
あ、落ちた。
私はすぐにわかる。
名前も知らないこの人のことを好きになってしまった。
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作者名：ねこひこ | 作成日時：2020年2月13日 21時
