サヨナラ、強がりスクリーン 5 ページ34
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傷つきたくない。
悲しい思いはしたくない。
ときめきも、期待も
その後に来る辛い痛みを際立たせてしまう。
それならはじめから、
素敵な気持ちなんてない方がよかった。
『……Aちゃん“いい歳して”ってよう言うけど』
彼の優しい顔。
Jr.時代に出ていたドラマのとおんなじ顔だ。
その時は丸刈りで、もっと太っていたし、もっと画質の荒いテレビで見ていたけれど。
『俺…、俺と恋するために……ゲーム、いれてくれたんやろ？』
彼がわたしに手を伸ばす。
私の頬に向かって、その骨張った綺麗な手を。
『……ごめん』
スクリーンはわたしと彼の間に、残酷に立ちはだかる。
彼の手を阻んだ画面に、わたしは額を落とした。
『……Aちゃんが…悲しい時に…抱きしめてあげられなくてごめんな……』
「ばか……ッ」
こんな気持ちになるなら、貴方と出逢わなければ。
「わたしはね？大倉くんと放課後にふたりきりで居残りがしたくてゲームをいれたんだから。抱きしめてもらわなくたって……。大丈夫なんだよ！」
『うん。………俺がしたかっただけやな』
「え……？」
スマホにくっつけた額が、少しあたたかくなったように感じた。
おもむろに顔を上げると、
目を閉じた彼のきれいな顔が
画面いっぱいにあって
少し尖った赤い唇に、“いい歳して”動揺してしまう。
「ははっ。近すぎ」
『笑ってくれたな』
せっかく作った蕎麦はかなり伸びてしまったけれど、わざわざ時間をかけて取った出汁はおいしかった。
彼はそれを食べるわたしを少し遠くから見ていた。
その夜、横山裕の夢を見た。
スクリーン越しじゃなく、温度のある彼と手を繋ぎ、彼は少し屈んで、わたしのおでこにキスをした。
あたたかい温もりが、消えて無くなってしまった時
わたしは久し振りに
彼の声無しで目が覚めた。
アプリを起動してもそこに真っ白な背景はなく、彼の姿もなかった。
〈名前を入力してね〉
〈恋するメンバーをえらんでね〉
「……」
ゲームは正常に作動し、選択肢を選ぶと横山裕が一喜一憂したり、わたしを口説いたりした。
ケンカをしてわたしが怒った時、
『怒った顔もカワイイな』と動かない横山裕は言った。
「……普通、乙女ゲームのキャラは金剛力士像なんて言わない、か」
彼のインタビューが載った雑誌を読んだ。なんてことない一文だった。
〈恋に年齢はないと思いますね。家でちゃんと出汁とかとれる女性がええかな〉
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作者名：ねこひこ | 作成日時：2020年2月13日 21時
