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もう関係の修復は半ば諦めていたけれど
千佳子に久しぶりに話しかけられたとき、
わたしはそれでも嬉しかった。
「Aいつから大倉くんと付き合ってたの？」
かわいい千佳子の顔が、やはりとても怒っていた。
声色は刺々しく、わたしのことを“裏切り者”と見做していた。
「付き合って…ないよ。…と、友達だよ」
「いいよ気遣わなくて。ねえ、わたしのこと馬鹿にしてた？付き合ってるのに好き好きって言ってるの、馬鹿だなぁって思ってたの？どうせ振られちゃうのにって思ってたの？」
「……そんなこと、思わないよ…………」
千佳子が大倉くんと付き合うのは嫌だった。
嫌だったけれど、
千佳子が傷つくのもまた嫌だった。
どうしたらわたしを見てくれるんだろう。
叶わないことは知っていた。
わたしが錦戸を好きになれないのと同じで、
千佳子は一生かかってもわたしのことを好きにはならない。
「……っわたし、が…」
この気持ちは迷惑だろう。
錦戸を振ったわたしのせいで大倉くんが傷ついたのと同じように、
わたしがこの気持ちを口にすることで、
きっと何かが崩れてしまう。
気持ち悪い、迷惑だ。
こんな気持ち、捨ててしまいたいのに。
「わたしがっ……好きなのは……千佳子だよ…」
「は……？」
「……ずっと…千佳子が…っ好きだったの…」
立て付けの悪いドアが開く音がした。
「A！」
わたしの、友達だった。
息を切らしてわたしの元へ来た。
「大丈夫…？」
「……はは、聞いてよ、大倉くん。なんか、A急に告白、してきて……ちょっと、びっくり、して……」
涙が、頬を伝う感触があった。
人前で泣くのなんて、いつぶりだろう。
大倉くんが、わたしの右手を取った。
「……じ、冗談に決まっとるやろ。A……Aは、おれと付き合うとるんやから…」
涙が止まらないわたしの手を引き、大倉くんはそのまま千佳子を残して教室を出た。
「Aっ……」
千佳子がわたしを呼ぶ声がしたけれど、その続きは聞こえなかった。
わたしはしんとした図書室で、
大倉くんの肩に目を押し付けて泣いた。
「言っちゃったよ……好きって…言ったよ…」
「…うん、すごいよ。Aは」
恋が終わる。
「おれは……怖くて、伝えられへんもん。Aは……かっこええな…」
恋が終わった。
わたしはこの夏、恋を失い、
親友を手に入れた。
17歳の、夏だった。
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作者名：ねこひこ | 作成日時：2020年2月13日 21時
