アンバー 8 ページ25
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今から9年ほど前だったろうか。
近くで小学6年生の女の子が行方不明になる事件があった。警察は誘拐の線で捜索を進めていると、ニュースで言っていた。
当時5年生だったわたしは、子供ながらに怖い人がいるもんだと感じた気がする。
その事件に敏感になったのはむしろ親の方で、しばらくは学校まで送り迎えに来ていた。
時間が経つにつれ、その事件の記憶や恐怖は薄まり、わたしの親も迎えには来なくなったし、わたしが中学生になると、反抗期も相まってあまり干渉されなくなっていった。
だから、あの時母があの事件に触れながらわたしを叱ったのは、母親の勘なのか、偶然か________
今となってはわからないが、つくづく親には敵わないなと思う。
大学生になったわたしが感じるのは
当時、自分で思っていたよりもずっとずっと
中学生は子供だと言うこと。
あの人が、当時中学一年生だったわたしとあんな風な時間を過ごしていたことは、確実に異常だった。
あの日、わたしは家族を捨ててあの人の元で生きる覚悟だった。子供心に母親を裏切ってやろうと言う気持ちがあったのだと思う。
あの人のキスに酔いながら、あの部屋にあるふすまが気になって、誘導するようにそれに二人で近づいた。
強すぎるほどの甘い香りに紛れて、
腐敗臭がしたような気がした。
_____なんの匂い?
_____フレグランスやろ、気に入ってんねん
_____そうじゃなくて…
_____ほら、こっち見て
わたしは、彼が部屋を離れた隙に
そのふすまを開けた。
「ヒッ………」
人間の死体だ。
見たこともないのにそう思った。
その臭いがグッと濃くなる。
甘い香りと混ざって吐き気がした。
「………あかんやん」
「隆平く、ん」
「大人になろうとするからさ、止めたったんやけど、あかんな。血抜かんと腐ってまう」
あの人の黒い瞳を始めて怖いと思った。
「Aちゃんは大人になったらあかんよ」
「な、……」
「今がいちばん可愛い」
あまい、におい。
「愛してるよ」
あの人が初めて口にした
わたしへの 愛の言葉だった。
確か、その後彼を振り切って逃げ帰り、母親に警察を呼んでくれと泣きついた。
なんの因果かその後すぐにわたしには初潮が来て、なんとなく、彼の求めていたものが子供の体だったことを理解した。
中学を卒業する頃にはわたしの身体は少し丸みを帯びていて、身長も少し伸びていた。
わたしは何故か
地面の蟻を見ると、あの夏を思い出す。
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作者名:ねこひこ | 作成日時:2020年2月13日 21時