セブンス2 ページ2
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これで仕事を休んだり、朝の雑用を辞めたら、それこそ負けだと思った。私は負けたくなかった。一生懸命やっている。それを見ていない人を見返したかった。
翌朝もいつもの時間に出社した。
デスクを掃除しながら、頭をガンガンと回る「向いてないんじゃない？」と言う言葉を思い出してキュウっと胸が苦しくなる。
「あれ〜Aさんやー。早ない？」
「…あ、おはようございます」
「おはよ〜」
一年先輩の安田さんは不思議な人で、
人懐っこいようにも見えるものの、その存在は後輩の私から見れば、異質で_____浮いていた。
「毎日この時間？」
「あ…まあ、はい」
「いつもAさん、真面目やもんね」
「え？」
「仕事が丁寧で時間も守るし」
「……」
「ちゃんとしとる子やなって。頑張っとるなぁって」
_____これは、今の私には、まるで
………麻薬____
私は、抗う。
「…っでも、し、新人の…仕事ですからっ」
「俺やったことないでー？」
「う…」
「だからね、偉いよなーって」
「……よくやるよ、って感じですかね」
「え、違うよ！！」
その人は、
私に贈り物をくれた。
「Aさんにしかできないことやから、素敵よ」
ダメだった。恋に落ちるには十分すぎた。
「俺なんて一回も雑用せえへんかったからめーっちゃ先輩に嫌われとるもんなー」
怖くないのかな。安田さんは。怖くないんだろうな。かっこいいな。こんな風になりたい。いつも笑顔で輝いていて、周りの目なんて気にしない、自由で、輝いていて。
「…………すき…」
「あは、変わっとるねえ、Aさん。俺、嫌われ者やで？」
「…はは」
_____........
翌日、安田さんは会社に来なかった。
散らかっている印象だった彼のデスクはすっかり綺麗になっていて、彼が辞めたと風の噂で聞いたのは、それから一週間が過ぎた時だった。
_____私は安田さんの連絡先すら、知らなかった。
誕生日も血液型も最寄り駅も、
好きな食べ物も、
兄弟はいますか、恋人はいますか、結婚はしたいですか_____
私にも後輩ができたけど、朝の雑用はなんとなく辞めなかった。
私にしかできないそれを続けていたら、
また安田さんが褒めてくれるかもしれない。あの人に見放されたくない。もう、会えないかもしれないけれど。
もう、会えないかもしれないけれど…
今、どこでなにをしているんですか。
あなたの記憶の片隅に、私は残っていますか。
_____終わってしまった恋の話_____
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作者名：ねこひこ | 作成日時：2020年2月13日 21時
