アンバー 5 ページ22
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スカートが乾く頃にはもう外は薄暗くなっていて、蝉の声が少し静かになった代わりに、夏の虫が忙しなく合唱を始めていた。
「…Aちゃん、帰らなあかんな」
帰りたくないな、と思った。
もう少し一緒にいたかった。
これで永遠にさよならだったらどうしようという不安もあったのだけど、わたしは確かに、隆平くんに惹かれているようだ。
「……また来てもいい？」
恐る恐る彼を見上げると、まっすぐわたしを見つめ返して
「Aちゃんなら特別な」
と口角をあげた。
乾いたスカートを履いて、隆平くんにハーフパンツを返した。洗わなくていいの？と聞いたら、数十分じゃ汚れへんよ、と返された。
空はまだ薄暗くて、夏もそろそろ本番に近づいているなと、虫の声を聞きながら感じる。
家に帰ればママがどこ行ってたの？と聞いたけど、学校で居残りしてたと嘘をついた。
「A香水つけた？」
ママがそう言った時、すぐわかった。隆平くんの匂いだ。あの部屋の匂いがわたしについたんだ。
「……知らない」
隆平くんのことをママに話せなかったのは、
彼がスカートに手を伸ばしたあの時の空気を思い出すと、胸の奥が疼いてしまうから。
この感情は、悪い人が抱くものだろうか。
どうして背徳感があるのだろう。
じっとりと近づいてくる、隆平くんの匂いは、甘くて湿っていた。
これが恋なら、先輩へ抱いていた感情は確かに恋じゃなかった。わたしの心臓はあの時こんなに煩くなかった。
あのまま、あの時、
隆平くんがわたしのスカートを下ろしていたら
どうなってしまっていたんだろう__________
甘くて生暖かいじっとりと湿ったあの部屋で、一体何が起こったんだろう。
目を閉じれば、またすぐそばに隆平くんがいる気がする。
ゆっくりと、ゆっくりと
隆平くんの手がわたしに伸びてきて
そして、彼は
わたしに 触れる__________
「……っはあ」
目を、開く。ここはわたしの部屋で、彼はいない。わたしに触っていたのは、他でもないわたし自身だった。
心が疼く。
身体が騒ぐ。
だめだ、これでは認めてしまう。
あの切長の目を思い出す。真暗な瞳でわたしを舐める。
太くて長い指。
触ったらどんな感じなんだろう。
ティッシュ越しじゃ、アイス越しじゃ、わからなかった。
わたしは、彼に
完全に欲 情していた_______________
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作者名：ねこひこ | 作成日時：2020年2月13日 21時
