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(天喰環視点)

急な全寮制に、落ち着かず、外を少し散歩しようとしただけだった。
しかし、気づけば一年生の寮付近まで無意識に歩いてきてしまっていた。

一年、ヒーロー科、菊地原士郎…。

その名前を思い出し、ずっと返そうと思っていつもポケットに入れ持ち歩いているハンカチを思わず握りしめる。

あれから一度も、会えて居ない。

まともにお礼も言えていなかったし、何より今、こんなストーカーのような行為を無自覚とは言えしてしまった自分に落ち込む。

何もない空間に立っているのが不安になって、ゴミ捨て場の方に向かった。
あそこなら、人も来ないだろうし…俺にお似合いだ。
ゴミを見つめながら心を落ち着ける…ダメだ、虚しくなってきた。

すると、背後から足音が聞こえ心臓が止まるかと思った。

一年生のゴミ捨て場に、三年生が居るなんて、どう見ても怪しい。
足音の主は、真っ直ぐこちらに向かってきて、ゴミの分別通り袋をポイポイ入れていく。

一瞬、視界に入った茶色の髪に、思わず顔を上げてしまった。

「え…ぁ、菊地原、さん……」

ずっと会いたいと思っていた相手が、目の前にいる。
幻覚かと思って頬を引っ張ったら、痛かった。

本物…?!

菊地原さんは俺の声に動きを止め、ゆっくり口を開いた。

「えっと…天喰先輩、ですよね…すみません、心音を聞いて誰かは分かっていたんですが、声をかけていいか悩んで」

菊地原さんはこちらに顔を向けずに話してくれている。
というか、気づいていてくれてたのか…そして気を使ってくれてたのか……!
じわじわと胸に広がる暖かさ。

「あー、今日は、そちらを向いても、大丈夫ですか?」

菊地原さんが気まずそうに頬を掻く。

この前の約束を、今も守ってくれている、のか…。

「あ、だ、大丈夫……」

「じゃあ、失礼します」

菊地原さんと目が合う。心臓が小刻みに震えるような、荒々しく暴れるような、不思議な感覚。
一瞬で耐えきれず、目を逸らしてしまった。

「天喰先輩、あの…失礼を承知でお伺いしますが…あがり症というか、人見知り、ですか?」

その通り過ぎて恥ずかしい。
何より、彼女は心音…心臓の音で俺だと気づいていたといった…なら、俺の心臓の音は、今も筒抜けというわけで…。

「うん…そうなんだ……ごめん」

恥ずかしくて死にそうだ。

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作者名:こんにゃくの様な何か | 作成日時:2019年2月26日 9時

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