50:愛の終着点 ページ4
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「全部、全部私が悪いんだ。この間倒れてしまったときからずっと、君の体調を気にかけておくべきだったのに、私は....」
消えてしまいそうなほどか細い声。
頬に涙が滲みきってようやくまともに喉が空気を通し始める。体の中から押し寄せていた"何か"を思い出して自分の胸に手をやった。けれど痛みの一つすら感じない。
傑はどんなに止めても謝ることをやめなかった。私がずっと隠していたせいなのに、何も言わなかったのは私なのに。彼自身を責める必要なんて、ないのに。
『私は本当にもう大丈夫だよ。前から胸に溜まっていた変なモノも感じない。助けてくれたんだよね』
「....あぁ、専門職の友人がいてね。彼女を頼ったんだ」
「私は何一つとして君に何かしてやれていない」と目を伏せる彼は、それでも安堵の表情を隠しきれていなかった。ずっと私が目覚めたことを喜んでくれている。それと同時に、彼は自分を責めている。
その気持ちの衝突は、どこに終着してしまうのだろう。私が取り除いてあげたいだなんて、虫が良すぎるのに。
「命に別状がなかったからといって、私は仕事を優先してしまったんだ。Aのためだとか、都合のいいように言い聞かせて....」
『....うん、そっか。私もね、傑がどんどん離れていく気がして寂しかったの、でもすれ違っちゃっただけなんだね』
私も気づけなくてごめんねと、彼一人を苦しませないように力無いその手を握りしめる。私のせいで辛い思いをさせてしまったことに変わりはないのだから。
『傑は悪くない、だからもう自分を責めないで、どうか笑って....?』
この以上の言葉なんて必要なかった。
必死に手を伸ばして、愛しい彼にキスをする。心からの言葉だと、そう信じてほしくて。
笑いかければ、涙混じりの微笑みが返ってくる。そのまま優しく抱きしめられ、愛の言葉が落ちては耳がくすぐったくなる。
それが幸せで、壊れかけの心なんてもう思い出せなくなってしまった。
「戻ってきてくれて、ありがとう....愛してるよ」
彼はもう、後ろ向きな言葉を呟かなかった。代わりに零れた愛の数々は全身に染みて、傑ともう一度触れ合えたことに胸が熱くなる。
やっぱり君を置いていくなんて、私には到底無理だ。偽善はきっと、最後に傑を傷つけてしまうから。
『私も、世界の誰よりも愛してる。大好きだよ』
君だけを、ずっと。
....それ以来あの悪夢を見ることは、なかった。
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むぎ(プロフ) - AO777さん» わ、ありがとうございます…!!!😭そう言っていただけて嬉しいです、何卒今後もよろしくお願いします☺️💕 (10月21日 0時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
AO777 - むぎさんのどの作品も物語がまとまっていて大好きです!陰ながら応援させていただいています。次話の更新が楽しみです! (10月20日 21時) (レス) @page6 id: c3c7964942 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月7日 8時