49:涙の跡をなぞって ページ3
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一命を取り留めたからと言って、すぐにAが目覚めることはなかった。
硝子を送ってから約2日間、後のことなど考えずにAのそばにいた。離れることなんて到底できなかった。
原因が呪いだというのなら、私にできることは少なからずあったはずだ。彼女の為だと思いながら取ってきた行動は、そこにAがいてくれることが最低条件だ。
いつしかそれを、私は忘れてしまっていた。
気づいたときには既に遅かったんだ。
寂しいと珍しく呟いたあの夜も、愛想笑いの尽きない日々も、AなりのSOSだった。いずれ解消してあげればいい、なんて。私なんかの隣にいる彼女の命に明日なんて保証されないというのに。
いつか、なんて思うのは愚かだ。
もう二度と取り返しがつかなくなることすら想像できない私は、あまりにも浮かれてしまっていた。
そばにいてくれるのは当たり前なんかじゃない。痛い程までに分かっていたはずなのに。
「......どうか、どうか戻ってきてくれ....」
君のいない世界に意味は無い。
もうその心を置いていったりなんてしない。
「君は私の全てなんだよ、A....ただ生きていてくれるだけで、勝手に救われた気になるんだ」
どうしようもないほど、ただ君だけを愛している。
....そう叫ぶには遅すぎたのだろうか?
頬を伝い始める涙が、握り締めた手を濡らす。歳をとったからか、やけに涙腺は緩んでいた。
....いや、それもきっと___
『....私、も。泣かないで、すぐる....』
___Aがいてくれるからだ。
強く握った手を、弱々しい華奢な手が握り返す。彼女の目頭に溜まった涙が、シーツに零れた。
目を覚ました、目を覚ましたんだ、Aが。
現状に追いつけないまま、ただ何度も彼女の名前を呼んだ。その度に応える声の全てが愛おしかった。
濡れた頬は暖かく、小さく零れた笑みはくすぐったい。痩せ細ってしまった体を、丁寧に抱きしめた。
「ごめん、私本気で、死んでしまったんじゃないかって...!」
『ううん、全部、私のせいだから....謝ら、ないで』
彼女は自身から生まれた呪いを理解しているように思えた。眠っている間に脳へ何かしらの干渉はあったのかもしれない。
けれど生きた心地のしなかった私にとって、それは今重要じゃなかった。
戻ってきてくれただけで、それだけでいい。
今はただこの体温だけを、どうか噛み締めさせてくれ。
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むぎ(プロフ) - AO777さん» わ、ありがとうございます…!!!😭そう言っていただけて嬉しいです、何卒今後もよろしくお願いします☺️💕 (10月21日 0時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
AO777 - むぎさんのどの作品も物語がまとまっていて大好きです!陰ながら応援させていただいています。次話の更新が楽しみです! (10月20日 21時) (レス) @page6 id: c3c7964942 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月7日 8時