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10話 ページ10

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偶然にしては都合が良すぎると、繕ってばかりの会話を交わしている内に思いつつあった。仕事で来ていたと言っていたけれど、そもそも今はどこに住んでいるのだろう。家族というのは仲間と同等なのだろうけど、術師なのか、呪詛師なのか。

....自分から探らない限り分からないことばかりなのに、それを口に出す勇気はない。

そうしている内に、遠くから正午を知らせるチャイムが鳴っていた。田舎育ちな私はこの音に少し懐かしさを覚える。
ここに着いたのが10時半頃だったことを思い出せば、何もしていないのにもうそんなに時間が経ったのかと不思議な感覚に陥っていた。

チャイムが鳴り止む頃に小さく腹が音を立て、羞恥心で全身が粟立った。反射的に手で覆って夏油を一瞥すれば、聞こえてしまったのかほだらかな笑みを零す。



「何か食べるかい?簡単なものでよければ作るよ、最近練習しているんだ」

『....なら、適当に』

「あぁ、分かった」



彼の親切心ですら素直に応えられない。それでも夏油は優しく頷いて席を立ち、すれ違いざまに大きな手で頭を撫でてきた。何を言うわけでもなく、ただ流れるように。

そのせいか視線は自ずと彼の方へと向いて、思わず手を伸ばし彼の袈裟の裾を引く。
この間とは違い、衝動的なものだった。反射的と言い訳しても許されるだろうか。

もう何でもいい。今日のは全部、夏油のせい。



『....傑』

「....そんなに煽らないでくれ」



目の前に腰を下ろして、一瞬だけ触れたあの手が頬を撫でる。少しざらりとした親指の感触に、吐息が溶けた。

どうして突然下の名を呼んでしまったのかは分からない。ただ、この雰囲気を纏っているこの瞬間だけは、許されるんじゃないかと思ったんだ。



「A....もう一度、呼んで」

『....す、ぐる....っ』



途端に顎が引かれ、優しく唇を奪われる。
空いた片手は指が絡み合い、全身がぞくりと震えた。

息を吸う間もなく何度も重ね合った唇から、僅かに吐息が零れる。薄く瞼を開けば、一瞬目が合ってしまい一層キスが深くなった。
呼吸が荒くなる寸前に離れた私達は、視線を交わし合う。自分がどんな顔をしているかなんて、知る勇気はない。



「....すまない。昼食、作ってくるよ」



少しの沈黙の後、思い出したかのように立ち上がった彼はそう言うと部屋を出ていった。取り残された私は曖昧に返事をした後、全身から力が抜けて床へ倒れ込む。


押さえても抑えても、心臓は鳴り止まない。

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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時

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