08話 ページ8
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また会いに行く、と言ってもいつ行けば夏油があの部屋に居てくれるかなんて私には想像のつかない話で。だからと言って電話で聞くなんて野暮なことも出来ずにいた。今後も彼と会うことを望むのなら、会った形跡は必ず消していかなければいけない。だから電車を使う際もわざわざ切符を買ったし、普段使う最寄りからは少し離れた駅から乗車した。
それをこれからも続けていけるなんて、思いもしていなかったけれど。
「何か見えるかって?急に変なこと言って、任務でしくった?」
『余計なお世話、ちょっと遠出したから変な呪霊の残穢とかついてたら嫌なだけ』
「変なとこ気にするよな、とりあえず普段と変わりねーよ」
帰ってすぐに、私は夏油と会った形跡が体に残っていないかを五条を使って調べていた。皆して一度会っているから、今回バレてしまってもまだどうにか流せる。
でも、私の体に夏油の残穢は残っていなかった。呪霊玉にする行為だけなら許容範囲、ということ。それを理解した途端、また彼に会いたくなった。気を抜かなければ今すぐにでも会いに行ける、合わせる顔はなくても。
『....普段と同じ態度でいいんだよね。変に気を張ったら警戒されそうだし』
心の中で思うよりは独り言として口に出す方が、自信を納得させる効力があるように思えた。寮の自室で鍵を揺らしながらキスを思い出しては悶え、会いたいけど会えなくなる。
いざまた夏油と顔を合わせたとき、私は変わらない態度を取り続けられるだろうか。
....けれどもう一度あの部屋に踏み込んだからには、やらない後悔よりやる後悔を私は選んだ。
『流石に、急に来たところで....』
任務場所からあまり離れていなかったことから、任務後に補助監督さんへ別れを告げて遠回りをしながらまたあの部屋に向かった。
中はがらんとしていて影に覆われている。太陽はまだ高いのに、相変わらず日光はほとんど差し込んでいなかった。
畳の上を一歩一歩と進んでいく。少し年季が入ったような木の匂いが鼻をつき、私はこの間も見たちゃぶ台の前に腰を下ろす。そわそわとしながら、どこか落ち着ける雰囲気の部屋だった。
ある意味、夏油がいなくて良かったかもしれない。心を落ち着ける時間が貰えたと思えば___
「....A?また、来たんだね」
胸を撫で下ろした矢先、背の向こうからする低い声。言わずもがな彼のもので、思わず私は振り返った。
そのとき本音を隠せた顔をしていたかは、分からない。
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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時