06話 ページ6
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＿＿＿意識がはっきりしたのは、帰りの電車に揺られている最中だった。流れるように指が唇に触れ、じんわりとあの感触を思い出す。
奪い奪われた唇は、まだ熱を帯びていた。
『ぅ、あ....私、やっちゃった....ダメって分かってたのに....』
揺れる車内、顔を手で覆った私は誰にも聞こえないように呟く。抱き寄せられた後からの記憶は曖昧で、何度か重ねた口付けくらいしか鮮明には思い出せない。でもそれ以上のことは何もなく、いつしか彼の元を去っていた。
途端、あの部屋の鍵のことを思い出す。嫌になりそうな胸の高鳴りに駆られるまま鞄を漁れば、またあのキーホルダーが目に映った。手に取れば、去る前に交わした会話が脳裏をよぎる。夏油の、寂しげに弧を描いた瞳が鮮明に。
「＿＿＿また、来てくれるだろう？」
彼が一体何を考え、何を望んでいるのか。私には一切分からなかった。言葉をそのまま受け取るのなら、私がまたあの場所に足を運ぶことを願っているような。
.....それは暗に、私の不安を拭っている。夏油は御法度であるあんな好意ですらも拒絶しなかったのだ。
だってあの抱き寄せられた感触は、嫌でも忘れられない。あんな、応えるかのようなキスは私にはあまりにも甘すぎる。
....私の気持ちは、もうバレてしまっただろうか。いや違う、それはない。彼は人の好意を利用したりする人間じゃないことは分かりきっている。それならもう、私を呼んだりせずに今日限りの関係で終わらせるはずだ。
まだ、大丈夫。素直にならないまま、彼に会いに行ける。それを心のどこかで噛み締めていた。
やっぱりどうしようもなく、夏油が好きだから。
『....また、行ってもいいの？会いに行っても....』
誰に問いかけるわけでもなく、人の少なくなった車内で願いを零す。
まだ綺麗なままのキーホルダーを握り締めて、夢見心地な現実を受け入れようとする。それでもまだ胸の内は騒めいたまま。
分かっている、彼の言葉やこの鍵が未だ手元に残っているのが何よりの証拠だと。何を疑うことなくまたあの部屋に出向けばいい。
＿＿＿たとえそれが、この世が許さない行為だとしても。
『....もう、キスなんてできやしない』
想いも逢瀬も、隠し通して正義となるなら。
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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (
レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です！ (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：むぎ
| 作成日時：2023年10月20日 18時
