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43話 ページ44

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彼は部屋を出ていくまでの間、私から手を離すことはほとんどなかった。当たり前のように手に指を伝わせ、絡ませ。僅かに残っている熱で私を染めあげた。きっとこの時間を、一生忘れることはできない。

正午を過ぎた頃のことだった、夏油が久しぶりに手料理を振る舞ってくれたのは。以前とは違い私もその隣に立ち彼の言う通りに手を動かす。ただそれだけの時間も、今となっては酷く惜しく感じた。
今までと変わらず二人でちゃぶ台を囲み、静かに箸を進める。食器との衝突音が、今日はやけに響いて聞こえた。けれどその中でも、彼の声はいつだって透き通っていく。

「随分と上手くなったものだろう、私は元々料理なんてする柄じゃなかったはずなのだけれどね」

そう目を伏せた彼は、言葉の割に満足げな表情を浮かべていて。家族達のことを脳裏に浮かべているのが見て取れた。そしてその家族達の為に磨き上げた腕を最後に私に見せてくれたというのは、きっと素直に喜んでいいものなのだろう。

『何年も前からずっと、夏油の作る料理は美味しいよ。ありがとうね』

するりと、簡単にも言葉は喉を通っていった。硬かった頬も自然と緩み、自分でも恥ずかしくなってしまうほどに感情が美しく零れる。この身体が浮いてしまうような感覚を、幸せと呼ぶのだろう。ふと、そんなことを思ってしまった。

「....はは、そんなことを言われる日が来るなんて思いもしなかったな....」

すっかり涙脆くなり、離反前よりも人間らしくなった彼は笑った。ごくごく自然な、意図しては作れないような笑顔だった。呪術師の夏油傑という人間を失わなければ出会えなかったなんてことに気づき始めてしまったなんて無情なことは、口が裂けても言えなかった。私達の中からあの青い春の日々が、確かに消えていくのを感じたから。

時計は無情にも知らぬ間に秒針を刻んで、私達の関係の終わりを告げようと今か今かと時を待っている。それを横目に流しながら、ふと重なったままの手に尋ねた。

『東京と京都、どっちに行くつもり?』

「....秘密」

『......私がもし貴方について行くって言ったなら、どうするつもりだったの』

「......それも、秘密」

ゆっくりと、琥珀を飲み込むように瞼が閉じる。その間の沈黙が答えのような気がした、狡い人だと思った。だけど同時に、最後まで愛したのが彼でよかったと思えた。
最後まで私を、別世界で生きる人間として一線を引いてくれる彼のことが、憎らしくも大好きだから。

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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時

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