05話 ページ5
.
「あんまり長居しては君の身が危ないんじゃないのかい?誰かに報告した上でここにいるわけじゃないだろう」
『処刑対象スレスレ。でも別に構わないから』
貴方のところへ堕ちるなら、それでも___
口を噤んで、何とか言葉を胸の内に秘める。気を抜けば本音が溢れてしまいそうで、それだけは阻止しなければいけなかった。呪霊の受け渡しなんてものは口実で、ただ夏油目当てにここにいるなんて。最後の最後に嫌われてしまうような真似はできない。
こうして机を囲んでいるのも、私が約束なんて重い言葉で彼を縛ったからかもしれない。情けをかけられているのなら、いち早くここを去らないといけないの?
....あぁダメだ、考えるほど後悔が増えていく。
どれもこれも今更で、それでも簡単に改善ができるほど、私は器用じゃない。
『そっちこそ、いつ殺されるか分からないくせに』
「私はそう簡単にやられないさ」
『余裕ぶっちゃって』
任務前に交わしていたかつての頃を思い出させる会話に、冷たく放った言葉も少しもどかしく感じる。何を言っても顔色一つ変えない夏油を見ていると、自然と目を逸らしてしまう。
余裕があるというか、ブレないというか、彼のそういうところも好きだった。勿論、今も。
「早速言っていた呪霊、取り込ませてもらうよ」
いつしか会話が途絶えた後、夏油はふと思い出したかのように私に手を差し出した。それに促され鞄から小型の瓶を取り出し、わざわざ近づいて手渡す。
彼が取り込んだら、帰るという選択肢しか残されない気がして少しでも近くに寄りたかった。そんな私に何を言うわけでもなく瓶に触れた彼は、蓋を開けた後何度も見た呪霊玉へと変化させていく。
やがて口元に運ばれ、その太い喉を通っていく様を私はじっと見つめていた。
心臓が一度大きく跳ねる。指先が僅かに震える。
....気づいたときには、吸い付かれるように彼の袈裟を引き、唇を重ねていた。
分かっていた。いけないことだって。
もう二度と会うことも無いかもしれないのだから、最後にこんな跡を残すわけにはいかなかったのに。
『....あぁやっぱり、苦い』
最後に一度だけ、その味を思い出したかった。
自分勝手に袈裟を引いていた手を離し、何事も無かったかのように身を引こうとする。けれどいつの間にか腰に手を回され、乱暴に抱き寄せられていた。
『ぇ、げとっ....』
「何も言うな」
__そのまま深い口付けを、ひっそりと交わして。
526人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時