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38話 ページ38

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....12月23日。なんでもないような一日に、変わらない日常の中で任務をこなす。軽く生徒達と会話を交わして、私は早くに学校を出た。
駅のホームで意味もなく液晶に映し出された時刻を見つめる。明日までに残された時間を脳内で繰り返しては、目を背けるようにスマホの電源を落とした。

揺れる車内、腰の沈んだ座席。
窓ガラスから聞こえてくる僅かな衝突音に、そっと耳を傾ける。ここには私を知る人は誰もいない。それだけで、瞼を閉じれば自然と愛しい彼の顔が浮かんだ。

今日くらい、境界なんてものは意味を持たないと信じたかったから。



『....すっかり古びてしまったのね、君も』



自身の鼻を啜る音が鼓膜を震わせた。白い足跡を残して辿り着いた小さな家の前で、冷えた鍵を視界に映す。年季の入ったそれは、昔に比べて質感すらも変わり果ててしまったように思える。


....ここに立つ私の想いは、何年経っても変わらないのに。


そんなことばかり、考えてしまう。
でも、こういう時に限って貴方は私を酷く優しく抱きしめてしまう人だから。




「....A、君一体どうして....」

『......なんでいるのよ、このばか....!』



目を丸くして奥の戸を引いた貴方を、私はどこかで思い描いてしまっていたんだ。


__あぁこの光景、前にも__


....そう気づいた時にはもう、冷えていたはずの体が、芯から火照っていくのを感じた。
私の手を雑に引いた夏油にもうずっと触れていなかった畳に組み敷かれては、まばたきすらも許されないような苛烈な瞳に吸い込まれていく。

額から汗を伝わす彼のポーカーフェイスは、もうとっくに崩れ落ちているというのに。



「....馬鹿は君だろ、ここに来ることの意味が分かってるのか?私は敵なんだ。君の、Aの命を奪うことなんて容易い事なんだよ....?」



だからこんなの、期待してしまうじゃないか。
....震えた声の先で、そう聞こえてきたような気がした。きっと私なんかが彼のことを語るなんて愚行なのだろうけど、私にはどうしても目の前の彼が、哀しげに私の腕を押さえ付ける夏油が、最悪の呪詛師なんかには見えなかった。

見通す世界が違えただけの、大切な人。



『....それでも、私は貴方に会いたかった...』



そこに溢れた、唯一の本音。
濡れた瞳に彼の姿が霞んで、腕の力が一瞬ばかり引いていた。
いつかの小動物を扱うような優しさはとうに消え失せ、零れ出す熱に駆られるように。

....乱暴に、私の唇を奪っていく。

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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時

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