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35話 ページ35

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夏が嫌いだった。
夏油のいなくなった日を思い出してしまうから。

冬が好きだった。
環境を言い訳にして、触れられていたから。


....でももう、いつしか好きも嫌いも混ざり合って溶けて。識別なんて付かなくなった。きっと彼がそばにいる季節は、どれも愛おしかったんだ。好きだとか嫌いだとかそんなことを考える余裕がない程に。

__そうやって事を思い出す私は、人混みに揉まれながら白い息を吐く。乾いた手の平を擦り合わせ小さく身震いをし、ポケットの中のキーホルダーを握りしめては恋しくなる。

2017年、冬。あれから数え切れないほどの年月が経った今、彼がこの存在を覚えているかも分からなかった。日に日に会う頻度が減った私達は、ある日を境に一切として関わり合うのを辞めた。嫌いになったわけがない。ただ、お互いに自分の置かれた状況を理解し、自分に課せられた仕事で精一杯になってしまった。大人になるというのはそういう事だ。夏油を傷つける為にあそこに通うなんてのは、耐えられなかった。

けれど年に一度だけ、クリスマスだけはあの家の電灯が光を灯していた。
引き寄せられるように訪れては、昔のように素っ気なくして唇を奪い合う。この日だけが私達に許された時間だった。


....そして今、11月の下旬に差し掛かった今日。
夏油が、高専に現れた。何の前触れもなく、久しい母校を訪れたかのように。
乙骨憂太くんの指導を遠回しに頼まれていた私は、この頃任務に出る機会がなかった。そのおかげで会えたんだ、なんて死んでも誰にも言えない。



「悟ー!久しいねー!!それに....Aもいるじゃないか!もう"10年近く会ってない"んじゃないかい?元気にしてたかな」



私でも分かる、取って付けたような明るさを振る舞った夏油と目が合う。優しく弧を描きこちらへと微笑みかける彼のその姿が、酷く胸を締めつけた。
分かってるはずだ。私達が会っていたことは、この世で存在してはいけない事。あの部屋を出た瞬間に、無に還る事なんだってこと。私達が会うのは10年ぶりで、離反して以来今日まで一度も再会しなかった間柄でしかない。

私達の間に、一切恋愛感情は含まれていないと。



『....今更何の用?すっかり私の顔なんて忘れてるかと思ってたけど』

「相変わらず素直じゃないね、一度も会いに来なかったからって拗ねないでくれよ」



私を映さない琥珀色の瞳。
あの部屋で見せるものとは違うニヒルな笑み。

....その全てに、下唇を噛んだ。

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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時

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