33話 ページ33
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呪術高専を卒業した今、それぞれが自分の道を歩み始めてから人目をそこまで気にせずに約束の部屋に出向けるようになった。ある意味自立をしたから。
少しでも彼の隣にいたくて、部屋に入り浸る日も少なくない。
夏油も私も、帰る場所がここになればいいなんて。
そんな妄想をするほどまでには心の余裕があった。
「今日もまだ帰したくないって言ったら、困るかな」
『....終電逃したら夏油のせいだからね』
擦れ合う布地。固く抱き寄せる鍛え上げられた腕。
彼の体に応えれば、引き込むような口付けが降ってくる。呼吸の合間に想いの溢れた言葉が溢れ出しそうになっては夏油の体を手繰り寄せる。名前を呼べば浅く息を漏らした彼が、またしても眉間に皺を寄せて深くまで私を堕としていく。
時折囁かれる言葉が全身に染み渡れば、私はここにいていい人間なんだと何度も安堵を覚える。呪いになってしまわないように、だけどこの手から二度と離れないように。
強く、強く。それだけを願う。
「....A、どこにも行くな」
『傑、こそ....』
止まらないでと想う間の甘い甘い堕とし文句。
重なった唇から注がれていく愛を取り零さないように、また私達は静かに互いを求め合う。世間から見ればまだ未成年と括られる、言わばただの子供達。身の丈に合わない罪と背徳感と罪悪感を背負ったまま、世の中の普通と掛け離れた大人になっていく。
夏油はもうずっと前から、10代とは思えない風貌を保ったまま。年々増していく色気と人たらしさは、世の大人達も顔負けだろう。そんな彼の表情が、私だけに向けられているとしたらどれだけ幸せなことなのだろうか。
『....だめ。目、逸らさないで』
「おや、随分煽るのが上手になったようだね。....私以外にそんな顔見せるなよ」
そしていつも、私達の思考はどこか似ている。
自分だけをと願う気持ちが、怖くなるほど触れる度に伝わってくる。それが私のか彼のものかなんて分からなくなってしまうほど自身の気持ちが昂っていても、夏油はきちんと言葉で示す術を持ち合わせていた。
勿論、息が整った頃にはそんな素振りは一切されないけれど。相変わらずのこの距離感は、私達にとっては最善のものだ。
『今夜は誰かさんのせいで帰れないんだけど』
「へぇ、野宿するのにピッタリな場所なら知ってるから教えてあげようか」
『....ほんと、貴方って人は....』
愛にまみれた息が零れる。
素直になれないこの時間も、いつしか愛おしい。
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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時