04話 ページ4
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一人は寂しいよと、そう笑いかけるのはいつだって夏油だった。後輩や同期達以外の人間を毛嫌いしていた私の隣に座って、何を言っても夏油は見放さなかった。
きっとその優しさに、甘えていた。
「....や、一昨日ぶり。正直来ないかと思っていたよ」
『言ったでしょ、約束は守る主義なの。それにこんなキーホルダー付けられちゃ....』
「あぁそれ、私のお気に入りだからね」
街中でのニヒルな笑顔とは違い、今まで見せていた自然な笑みが揺れたキーホルダーに向く。それに気づかないフリをして、私は部屋の中へと足を進めた。
田舎にある、公共機関からも離れたところに寂しげに建つ平屋。中はこじんまりとした和室で、畳に擦れる音がしながら辺りを見渡す。目に映る限りの扉や障子は、全て締め切られていた。何故か日光が差し込むこともない午後、一瞬電球が点滅する。
『....というか、何その格好。仏教関係に足突っ込んだわけ?』
「ご名答、教祖をしているんだ。まぁ詳しくは言えないけどね。大切な"家族"が出来たから」
『家族....あぁ、そういう意味』
理解に至るのは案外早かった。それを否定することも身を引くこともせず、彼に促されるまま畳に腰を下ろす。ちゃぶ台の向こうに座る夏油は、膝に肘を付きながら私に茶を勧めてくる。確かに教祖が様になっている気がして、また少し彼が遠くなったように思えた。
少しずつ手が届かなくなっていく。どうせこの部屋の鍵も今日限りな話で、きっと明日からは何もなかったかのように過ごしていく。硝子や、五条のように。慣れたはずなのに、何故か急に怖くなった。
『まだ高専には申請出してないやつ、持ってきた。珍しい術持ってたから、夏油が好きそうだと思って』
「....私が居なくなっても尚、気遣ってくれたんだね。やっぱり君は優しい子だよ」
『何よ、余計なお世話だし....』
夏油の言葉はどれもこそばゆいものばかりで、優しく頭を撫でられたかのような錯覚に陥る。私がそれに弱いことを知ってか知らずか、彼の言葉にいつも宥められてきた。
相変わらず会えない日がどれだけ経とうと私の中の夏油傑という人間は変わりなく、素直になれない。
今こうやって彼に会うこと自体、咎められて罰を下されることなのに。胸の奥底は、喜びを抑えることを知らない。
『同い年なんだから、子供扱いしないでくれる?』
「ん?あぁすまない、つい癖でね」
その不意なふにゃりとした微笑みにも、弱いのに。
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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時