30話 ページ30
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少しばかり昔の夢を見た。
まるで他人事のようで、でも確かに存在していた記憶の。
「なんだいA、そんなに見つめて。私のこと好きなのかな」
『....は？別に意味はない、自意識過剰。呪霊取り込んで夏油までおかしくなったんじゃないの』
東京に珍しく雪が降り注いだ日だった。補助監督さんが迎えに来てくれた、任務終わりの車内でのこと。ふと、意味もなく彼の横顔に目を奪われては声をかけられるまで、自分の意識は遠く何処かに置き去りにしたような感覚に陥っていた。
気がついたときには目が合っていて、尚且つ図星を突かれたものだから心臓が一度大きく跳ねる。早口になってしまったと思いながらそれでも必死に冷静さを取り繕ってみせるものの、窓に映った自身の顔を見る勇気もない。
夏油はそんな私の内側を知ってか知らずか、薄らと目を細めて笑ってみせる。
残念、だなんてきっと少しも思ってもいないことを呟いて。
『夏油を好きになるとかありえない、女誑しはお断りだし』
「心外だな、こう見えて一途なんだよ」
『....嘘つけ』
そうだったらいいななんて、その好意が自分に向いたらな、なんて。私はまた、夢の中でも同じ思考と誤ちを繰り返す。
自分の気持ちに正直になることを許されるのは当たり前じゃなかった。この日、この瞬間。好きだよって言えていたなら。名前で呼べていたなら。
どこにも感情をぶつけれらない明晰夢なんて、もう見たくもないのに。
そう願った瞬間から、意識が自身の肌に集中していく。何かに包まれている感触が未だ明晰夢の中にいる私へと侵食して、現実へと引き込まれていくような。
『....す、ぐる....？』
それでもまだ夢の中だと頭の片隅でそう思っていた。
感触の答えを知りたくて、つい口を衝いて出た彼の名前。
「......そうだよ。おはよう、A」
薄らと広がった視界の先で、頬を綻ばせた夏油が映る。何が夢でどれが現実か、もう区別も分からなかった。
でも、私を優しく抱きしめてくれている彼が本当に存在していると徐々に実感が湧いて何かが込み上げてくる。
つい名前を呼んでしまったことを後悔する余裕もなく、私を襲う感情の渦。
ただ、"おはよう"と笑いかけてくれる今を生きていることが、どうしようもなく幸せだった。
彼といるとどんなことでも全てが私の幸せになる。
こんな世界、簡単に手放すなんてできないのに。
私はきっと、夏油の胸の中で永遠に覚めない夢を見ている。
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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (
レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です！ (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：むぎ
| 作成日時：2023年10月20日 18時
