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24話 ページ24

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私には夏油に会う資格がない。

そんな冷たい釘が、キーホルダーを見つめる度に私の胸の奥まで侵食していった。今日だって、ただ彼のことを思い出しながら畳に身を投げて、生産性のない一日を過ごすはずだったのに。

夏油があんなに激しく私の唇を奪うから、嫌でも胸の奥の釘は抜けてしまった。留めていた感情が溢れかえ、むせ返りそうになるほど甘ったるい。それも、彼も私と会えることを望んでくれていた、なんて一瞬の内に思ってしまったから。多分これは、勘違いじゃない。夏油の触れる手がそれを証明しているように思えた。



「今日は冷えるから、こたつでも出そうかと思ってたんだ。
....まだ、ここにいてくれるかい?」

『....ん、別に予定もないし....』



夏油はズルい。そんな聞かれ方をして断れる人などいない。彼にも自分の気持ちにも、抗えない。
夏油と二人きりの空間ではじっとしていられなかった。手を動かして自分を誤魔化す為に、箪笥を開けこたつの準備を手伝おうとする。何もない部屋だと思っていたけれど、箪笥の中には布団やら毛布やら、寝泊まりできる道具は揃えてあるようだった。それらを一瞥して上の方に積み重なった敷布団に手を伸ばす。

後少し、というところで目の前に影が落ちた。僅かに震えた指先に、どこから来たのか彼の肌が触れる。そのまま耳元に、柔らかな息がかかった。



「危ないよ、落ちてきたらどうするの」

『ぁ....ご、めん』



反射的に飛び出した謝罪の言葉。思わず目が合って、口を噤んだ。自分でもあまりに自然に、変な言い訳もせずに口にできたことが不思議だった。きっと夏油も同じ感情に至ったんだろう、沈黙だけが流れてピクリとも動かない。そんな中一人私は、内心羞恥心に襲われかけていた。
謝るのが珍しい人間だって思われてる、絶対。いやでもその通りというか、本当はそんなの人間として有り得ないけど的を得すぎて言葉も出ないというか....

思い返せば妥当な反応に、顔を逸らし敷布団へと伸ばしていた手を引いて彼の名を呼んだ。早く取りなよ、なんて他人事のフリをして。私に合わせて知らないフリを、何事もなかったかのように振る舞ってくれたら、なんてのは自分勝手だと知りながら。



「....今日、二人でここに泊まらないか」



....けれど一体何が彼のスイッチを押してしまったのか、返ってきたのは予想だにしなかった言葉だった。でも身体は正直に火照って、鼓動を加速させる。

分かってるよ、自分の気持ちくらい。

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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時

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