19話 ページ19
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あの日から私は、約束の部屋に通うことを辞めた。心にこれ以上傷を負うのがどうしても怖くて。会いたい気持ちは加速していくだけなのに、精神はそれに追いつけなかった。
「窓からの報告書にお前が呪霊を体内に取り込んだ旨の記載があるが、事実か?」
『....そうですが、何か問題でも』
心に空いた穴を埋めるように、私は普段より率先して任務に出ていた。意味もなく呪霊を探して祓い、体内にヤツらを取り込む。夏油に形だけでも近づきたくて、私は約束通り彼に渡す"良いヤツ"以外を呪霊瓶を使わずに飲み込んでいた。
これ以外に彼を感じる方法が、思いつかなかった。あの部屋に行く勇気がないくせして、相変わらず未練だけは有り余っているのだから。
先生は私を心配してくれているらしい。きっとどこか、夏油と重ねてしまったんだろう。心配かけたくないけど、ごめんね先生。私は償いのためにこれを繰り返すよ。きっとこの苦味も、彼に比べたらまだ足りないくらいだから。
「....A、無理はするな。悟も硝子も心配してる」
『分かってますよ、せんせ』
私までも先生を苦しめる生徒に育って、ごめんね。
___それからどれほど経っただろうか。気づけば季節は巡り、あっという間に冬になった。東京なのに毎日のように雪が降る異常気象で、それでも相変わらず私達に任務は課せられた。
私は結局一度も、あの部屋を訪れていない。合わせる顔なんてどこにもなかったから。夏油がどこにあるかも分からなかったはずなのに見つけ出して、私の元に届けてくれて。それなのに私は、一時の感情だけでそれを壊そうとしたんだ。到底許せることじゃない。
....でも、その月のクリスマスの日。
世間のムードに感化されてか、私は久しぶりにあの部屋に向かった。何も期待せず、ただ導かれるように白い息を溶かしながら見慣れた道を行く。なんとなく、夏油のことだけを考えていたかった。クリスマスという特別な日に、酔っていたんだ。
だから戸の向こうの人影にも、気づかなかった。
「....A、なんで....」
鍵を刺そうとした途端、開くはずのない戸が引かれ玄関先に彼の姿が見える。
幻覚だと思った。そんな都合のいいこと、あるわけがないって。
だけど彼の名を呼んだ瞬間、強く腕を引かれ勢いよく戸が閉まる音がした。
熱を帯びた視線を交わせば、あの日のように酷くて暖かい彼の腕の中、熱くて深いキスが私を襲う。
彼の匂いが、輪郭を帯びていく。
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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時