11話 ページ11
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想いを口にしたとき、この関係は終わる。
今の私に出せる答えはこれだけだった。夏油が私のことをどう思っているのか分からない。人の好意を利用しないとは言え、今の彼がどうかと言われると断言できないから。高専にいた頃と変わっていないかなんて、教祖になったことを踏まえれば分かるはずもない。
でも今回のキスは私ではなく彼からのもの。トリガーになったのが私の言動だとしても、最後に決断したのは夏油だ。
....余計なことを考えるのは辞めよう。私達は本来、会うことも触れることも簡単には許されない世界にいるのだから。この場所を、私達の間で例外としない限り。
『....夏油って、こんなに料理上手だったけ』
「言っただろう?家族の為に練習をね。まだ幼い子達だから、色々と要望が尽きないんだ」
教祖の道を歩んでも尚、夏油の根底にある優しさには嘘をつけないんだなと喉に料理を通しながら思った。
彼が部屋に戻ってくる頃には一線を超えてしまいそうな雰囲気は絶たれ、私達の間には変わらない温度の時間が過ぎていく。何事もなかったかのように会話を繰り返し、私が彼の下の名を呼ぶこともなかった。
それに対しこれ以上言及されることもなく、夏油は黙々と料理を口に運ぶ。彼にしては少量で、更にはこれも練習だと言うから、疑問が少し積み重なった。でも安易に聞けなくて、それも一緒に飲み込んでいく。
でもまだ、キスの記憶も感触も消せていない。
『昼過ぎには帰る、から』
「そう、なら私も合わせて出ることにしようかな」
『....わざわざ気遣わないでよ』
「遣ってないよ、私がそうしたいからそうするだけさ」
満足そうに笑った彼は、私の食器も手に取り席を立つ。そのまま姿が見えなくなって、私は一人溜め息を零した。無意識に気を張っているのか、疲労感が徐々に体を侵食していく。それでも気まずさだとか負の感情はそこにはなくて、この場所は心地良かった。実家で和室に慣れているからか、自然と身も心も馴染んでいるのかもしれない。
....そういえばこの話、確か前に夏油にも___
「お茶、おかわりいるかな」
『ぇ、いや......ううん、お願い』
彼の声かけに、脳内で処理する情報が入れ替わっていく。いつしか先程までの記憶はどこかに仕舞われて、目の前にいる夏油のことばかりを考えていた。彼の顔も、声も、性格も。言動の一つ一つまでも、私は彼の全てが好きだった。
....だからと言って、今更どうにかなるわけでもないのに。
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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時