02話 ページ2
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別に私は、夏油がどんな道を選ぼうとそれを責める権利なんてないと思っていた。でもそれは単純に、その隣に私がいればいいと勝手に思っていたからにすぎない。
置いていかれた挙句、縁を切った前提で話を進めていた彼に心を抉られていく。
それも全て、自業自得なのに。
『これくらいで縁が切れるほど浅い関係じゃないでしょ。私は約束は破らない主義なの』
「....そう、分かった。それなら私も、君との約束を破るわけにはいかないね」
ニヒルな笑みを浮かべる夏油は、あの夏の頃に比べて明らかに隈が無くなっていることに気づく。「生き方は決めた」と、そう言われたと五条が話していたことを思い出す。自分の居場所を見つけたと、そういうことなのだろうか。
元より私達は付き合っていない。彼に一度もこの好意を顕にしたこともない。だからきっと、傍から見れば私達は口が悪い女とそれを流す男程度にしか見えなかったはずだ。
それでも私はこの関係に満足していた。本音が言えなくても、側に居れるだけで十分だった。
けれど夏油は、"向こう側"を選んだ。
私はただの、自意識過剰な女でしかなかった。
....それでも彼は期待させるようなことを言うから、忘れられない彼の残り香が強くなる。
「今週の土曜、この部屋で待ってるよ」
彼はそれだけを囁いて、私の手の中にどこかの部屋のものであろう鍵を残していった。気づけばどこにも夏油の姿はなく、少し経った後、私が予備として使っていた携帯にその部屋の住所が送られてきていた。
『....誰が行くの、こんな怪しい誘い....』
そう呟きながら、私は一人街中で冷たい鍵を見つめる。鍵に付いていた、かつて私が遠方の任務に出た際の土産として渡したキーホルダーを、そっと揺らす。
馬鹿みたいにセンスのない、それでも私なりに一生懸命選んだ、彼への土産。
縁を切られたとか、私を避けて会ってくれなかったりだとか、その他諸々。嫌われたんだと思ってしまうようなことをするくせに、なんでこんなことするの。
こんなのよりもっといい何かがあったでしょ、無難な物を付けておけば良かったじゃない。どうして私の面影を残すような真似をするの。
『....誰が、行くもんか』
早く土曜になれなんて、思ってない。
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むぎ(プロフ) - カナさん» 素敵なお言葉、大変嬉しいです!!!!☺️私も二人の幸せを願ってやみません、どうか一緒に最後まで見守っていただけると幸いです。 (1月29日 23時) (レス) id: 1e000180a9 (このIDを非表示/違反報告)
カナ - 切なすぎて最後がくるのが待ち遠しい反面悲話にならないで欲しいとただひたすらに願っています。それくらいこのお話が大好きです。 (1月28日 21時) (レス) @page41 id: cd1392beae (このIDを非表示/違反報告)
むぎ(プロフ) - りんごさん» 嬉しいです!!!ありがとうございます🙌💗 (11月9日 1時) (レス) id: 3893744af8 (このIDを非表示/違反報告)
りんご - 引き込まれました、凄く好きなお話です! (11月7日 0時) (レス) @page26 id: 96e8a3b79d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2023年10月20日 18時