09：溶ける吐息 ページ9
.
数秒経ち、とろけるようなキスに彼の腕の中で力が抜け、それを支えようとして二人は床へと座り込んだ。甘い吐息と共に離れ、二人の間の空気が少し熱くなる。
直感的にこのままだと彼のペースに呑み込まれると感じた彼女は、夏油に背を向け少しだけ距離を取った。
『そ、そうだ、お風呂入ったらどうかな。体も濡れて冷えちゃっただろうし』
キスの余韻が残っているせいで、まともに彼が見れなかった。そっぽを向いた顔にいつものポーカーフェイスの面影はない。
そう、だからなんというか。
これから起こることは背を向けなければ防げたかもしれなかった。
残っていた力で立ち上がろうとするA。
けれど、それを止めるように後ろから夏油は手を回し、自分の方へと力強く引き寄せた。
『わっ』と彼女の声が上がると共にボスっと大きな音がして、また彼はAを抱きしめる。
いわゆるバックハグにただでさえキスで高鳴ったばかりの心臓が大きく波を打つ。
彼もまた、うるさい心臓が鳴り止まずにいた。
「Aを困らせたくない」
「風邪を引かせたくない」
そう心では叫んでいるのに、体がAを離そうとはしない。
体は正直なもので、
「離れたくない」
という本心を丸出しにしていたのだ。
『えっ、と...すぐる...？』
上手に呂律の回っていない、とろけた彼女の問いかけに返ってくる言葉はない。
抜け出そうとAが力を込めれば余計に抱きしめられる力が強まるだけ。
それでも彼女は引く訳にはいかなかった。普段のように冷たくあしらい、そういう雰囲気を断ち切ろうとそう考えていた。
しかし、そんなAの考えも夏油の一言で崩れ落ちる。
もう一度力を込めた途端、
「離れるな、A」
と、耳元で囁かれる彼にしてはかなり珍しい命令文と強まる力。
低くて甘い吐息の混じった声に彼女はびくっと体を震わせ、込めた力が抜け落ちた。
手が震え、耳が熱くなっていくことをAは自分で実感する。
今手を離してしまえば彼女がどこかに消えてしまう、そう思った夏油は自分の腕の中に留まったAを肌で感じ安堵した。
彼はそういう雰囲気にしたくとも、無理やりだったり彼女が嫌がることはしないと決めていた。それだけAのことを愛していたのだ。
しかし、今日の彼は少し様子がおかしい。
『ね、ねぇ、すぐっ...』
彼女の呼びかけを遮り、顎をグイッと自分の方へと引いた彼は強引に唇を重ねた。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 828人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
甘木 - えっ何でこんなに可愛いんですか…？？夏油様も可愛ければ夢主ちゃんも可愛い…え？夏油様は神じゃなく天使と女神が合わさった方だった…？(脳し) (2022年1月28日 2時) (
レス) @page7 id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
青葉 - えっ？二人とも可愛いすぎんか⁇夏油様頑張れ！笑 (2022年1月27日 13時) (レス) @page5 id: 72f2f340c8 (このIDを非表示/違反報告)
RURI(プロフ) - 夏油様！むぎちゃんの新作待ってましたー！可愛い攻防戦をありがとう(*´˘`*)♡ (2022年1月26日 23時) (レス) id: 8724428549 (このIDを非表示/違反報告)
ろく - めちゃ可愛い夏油傑です最高です (2022年1月26日 22時) (レス) @page2 id: 5f4bcdb5df (このIDを非表示/違反報告)
甘木 - わあ…！夏油様だ…！なにこの可愛くてちっちゃな攻防戦‼︎可愛い過ぎませんか？？え、可愛さに殺されるっ…！ (2022年1月26日 21時) (レス) @page2 id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：むぎ
| 作成日時：2022年1月26日 18時
