12:誕生日に乾杯を ページ12
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二人だけが残された部屋、手を引かれよろめいていたAは片手をベットについた。夏油の手が腕からするりと下りて甲に触れる。
『わ、私もう行かなきゃ』
「大丈夫、少しくらい怒られやしないさ。硝子が上手く言ってくれる」
逃げようとしても彼は離す気は更々ない。むしろ逃がすまいというように彼女の手と絡ませ、まるで恋人繋ぎをするようにぎゅっと握った。
明らかに恥ずかしがっているAを見て、夏油はふと思う。
「もしかして、いつも自分に迫られているときだけ冷たくされているんじゃないか」と。
大正解である。でも今彼にそれを確認するすべは直接聞くくらいしかない。どうせ答えてはくれないから、少しいじめてみることにした。
「昨日のキス、嫌だったのかな」
『...えっ、い、いや、えっと』
夏油にじっと見つめられ、彼女は焦る。どちらの答えでもいい方に転ぶとは思えず、
『よく、覚えてない...』
自ら逃げ道を作った。しかし、その先は行き止まりだ。だってそれさえも上手に利用してしまうのだから。
手を握ったまま少しベットから身を乗り出し、片手でAを引き寄せるように手を添え、ふっと笑う。
「覚えてない、か。なら思い出せるまで、忘れられなくなるまでしてあげるよ」
少し前までとは違う、低くて色気のある声に彼女は反応せざるを得なかった。彼女自身はポーカーフェイスのつもりだが、傍から見れば翻弄されて赤面し恥ずかしがっているようにしか見えない。
反抗しようと口を開く前に、吸いつくように口付けが交わされる。今日に至ってはAの完全敗北、と言っても過言ではなかった。
「どう?思い出したかな」
『...分かってるくせに』
「分かっててやるのがいいんだよ」
ふふ、と楽しそうに夏油が笑う。少し不満を表情に出しながらもAはベットに足を乗せた。「風邪移っちゃうかもしれないな」『もう遅いじゃん』なんていつもの二人らしい会話を繋げ、自然とまた唇は重なる。
『...はい、もう終わり。流石にそろそろ、ね』
振り切れたようにすっと彼から離れた。普段の冷たさを纏うようにして、赤面していた彼女の面影を少しも感じさせない。こういうところが上手なのだ。
「しょうがないか」と彼を納得させ、部屋から出ようとしたとき、振り返ってふっと笑う。
『お誕生日おめでとう、傑』
任務やら風邪やらの詰め込みですっかりそれを忘れていた夏油。完敗とはいかなかったようだ。
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甘木 - えっ何でこんなに可愛いんですか…??夏油様も可愛ければ夢主ちゃんも可愛い…え?夏油様は神じゃなく天使と女神が合わさった方だった…?(脳し) (2022年1月28日 2時) (レス) @page7 id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
青葉 - えっ?二人とも可愛いすぎんか⁇夏油様頑張れ!笑 (2022年1月27日 13時) (レス) @page5 id: 72f2f340c8 (このIDを非表示/違反報告)
RURI(プロフ) - 夏油様!むぎちゃんの新作待ってましたー!可愛い攻防戦をありがとう(*´˘`*)♡ (2022年1月26日 23時) (レス) id: 8724428549 (このIDを非表示/違反報告)
ろく - めちゃ可愛い夏油傑です最高です (2022年1月26日 22時) (レス) @page2 id: 5f4bcdb5df (このIDを非表示/違反報告)
甘木 - わあ…!夏油様だ…!なにこの可愛くてちっちゃな攻防戦‼︎可愛い過ぎませんか??え、可愛さに殺されるっ…! (2022年1月26日 21時) (レス) @page2 id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:むぎ | 作成日時:2022年1月26日 18時