11：嘘は蜜の味 ページ11
.
「んで、アンタ達はAの部屋で何やってたの」
翌日の朝、夏油の部屋で何かを見透かしたような硝子の声が二人の背を震わせた。
冷や汗が彼女の体を伝う中、落ち着いて夏油は口を開く。
「実はね、髪をAに拭いてもらったところからの記憶が無いんだ」
「へぇ、夏油はこう言ってるけど。Aはどうなの」
二人の視線が彼女の元に集まる。『そんな都合のいい事ってあるの？』と疑問と安堵を感じながら何処か寂しさにも襲われた。
すると、彼が覚えていないのをいいことに
『傑の言う通りだよ。部屋について拭いてあげてたら急に倒れちゃって、硝子に電話が繋がって良かった』
と嘘をつき、何もなかったフリをした。あんな姿見られちゃったしむしろ忘れてくれて良かったと結果オーライだからいいかと自分を説得するようにそう胸の奥で呟く。
硝子の曖昧な返事を最後にその話題はそこで途切れた。
少し世間話をした後、まだ完治していない夏油以外の二人は教室へ向かうべく寮室から出ようとした。
「じゃあね」と二人が手を振り彼に背を向けたとき。
『...傑？』
夏油に腕を掴まれ、Aの足は止まった。
硝子はそれに気づく様子もなく一人扉へと向かっていく。
『どうしたの』と彼女が聞く前に、彼はAを自分の方へと引っ張り、口を耳へと寄せてそっと囁いた。
「嘘つかなくても良かったのに」
その瞬間、二人の目が合う。Aは口をぱくぱくとさせ、夏油は意地悪く微笑んだ。
少し遠くから硝子の呼ぶ声が微かに二人の耳へと届く。しかしどちらも反応しようとはしない。
『な、んで、だって、記憶、』
「そりゃあ、いつもは冷たいのにあんな可愛いところ見せられたら忘れられるわけがないだろう」
『じゃ、じゃあさっきのは』
「嘘だよ」
やけに素直な夏油が彼女よりも一枚上手だった。「騙されちゃって可愛い」とまで言ってしまいそうになりなんとか自制をかける。Aは普段と違い焦りが表情に出ているせいで彼が優勢にしか見えない。してやられたというやつだ。
その頃硝子は、一歩廊下に踏み出し、目の前を通りかかった五条に二度見を食らっていた。
「なんで硝子が男子寮にいんの。ここ傑の部屋だし」
「風邪引いたっぽくて病状見てやってたの。ほら、教室いこ」
「へー、そういやAは」
「...あの子は寝坊って伝えとく」
一度夏油の部屋を見て呟く。
そう、空気の読める人間である。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 828人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
甘木 - えっ何でこんなに可愛いんですか…？？夏油様も可愛ければ夢主ちゃんも可愛い…え？夏油様は神じゃなく天使と女神が合わさった方だった…？(脳し) (2022年1月28日 2時) (
レス) @page7 id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
青葉 - えっ？二人とも可愛いすぎんか⁇夏油様頑張れ！笑 (2022年1月27日 13時) (レス) @page5 id: 72f2f340c8 (このIDを非表示/違反報告)
RURI(プロフ) - 夏油様！むぎちゃんの新作待ってましたー！可愛い攻防戦をありがとう(*´˘`*)♡ (2022年1月26日 23時) (レス) id: 8724428549 (このIDを非表示/違反報告)
ろく - めちゃ可愛い夏油傑です最高です (2022年1月26日 22時) (レス) @page2 id: 5f4bcdb5df (このIDを非表示/違反報告)
甘木 - わあ…！夏油様だ…！なにこの可愛くてちっちゃな攻防戦‼︎可愛い過ぎませんか？？え、可愛さに殺されるっ…！ (2022年1月26日 21時) (レス) @page2 id: 7c01fc8068 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：むぎ
| 作成日時：2022年1月26日 18時
